「キャラクターのデザインを考えるときは、いつも日本のアニメやマンガからインスピレーションを受けるんだ」。こう語るのは、コロンビア第2の都市メデジンでイラストレーター兼グラフィックデザイナーとして働くジョニー・サンチェスさん(35歳)だ。サンチェスさんの作品の最大の特徴は、日本のアニメやマンガのコンセプトや技法を採り入れていること。アンティオキア県庁やメデジン市役所から仕事の依頼を受けることもある。
■日本アニメは「人間味ある」
サンチェスさんが子どものころ、コロンビアで「ドラゴンボール」や「聖闘士星矢」などがテレビで放送されていた。それがきっかけで絵を描くことが大好きに。イラストレーターへの憧れが日に日に強くなっていったという。
サンチェスさんを惹きつけたのは、日本のアニメの“人間味”だった。「ドラゴンボールの孫悟空はお腹が空いたり、疲れ果てたり、自分たちと同じ人間だってことが伝わってくるよね。それに強くなるために努力する姿が好きなんだ。だけどスーパーマンは最初から強い。練習なんてしないし、疲れた表情を見せない。だから日本のアニメの方が好きだよ」と話す。
サンチェスさんはメデジンの市役所やデザイン会社で働いた後、2012年にフリーランスに転身した。彼の顧客は企業、メデジン市役所、アンティオキア県庁、国連児童基金(UNICEF)など。メデジン市役所からはデング熱予防キャンペーンのPRキャラクター「デングラちゃん」を作る仕事を得た。
サンチェスさんのデザインが高く評価されている理由のひとつは、サンチェスさんが日本のアニメやマンガから得たコンセプトや技法を用いていることだ。
メデジンを本拠地とするサッカーチームのナシオナル・メデジンが2015年に開いたマンガコンテスト「サロン・ナシオナル・デ・コミク・イ・マンガ・デ・メデジン」で、彼は3位に入賞した。ストーリーは、初めは自分ひとりの力で勝っていたサッカー選手が、強敵との戦いを通して努力や仲間が大事だと気づき、最後はみんなの力を合わせて勝利するというもの。ストーリーの展開とイラストはいずれも「キャプテン翼」がモチーフになっているという。彼の作品は審査員たちの心をつかんだ。
サンチェスさんは、依頼された仕事を淡々とこなすだけではない。自身のスキルアップを目指すプロジェクト「サンチェクステル・エストゥディオ」を立ち上げた。サッカー選手の似顔絵やアニメのキャラクターなどを描きながら、新たな技術やスタイルを探求する。このプロジェクトの一環で、大きくて恐ろしい怪物にも怯まずに立ち向かう勇者を描いた。その際は、自らの体内に封印された「九尾」という化け狐と対話しようとする主人公ナルトを参考にしたそうだ。
■年収は平均の3倍!
世界の統計を集めるポータルサイト「インデックス・ムンディ」によると、コロンビアの国民1人当たりの国民総所得(GNI)は、2016年で1741万90ペソ(約65万円)。世界銀行が2017年12月に発表した国民1人当たりGNIの世界ランキングでコロンビアは108位(ちなみに日本は34位)。サンチェスさんの2016年の年収はおよそ4900万ペソ(約182万円)で、コロンビア平均の3倍近い。
アニメやマンガをより深く理解するために、サンチェスさんは2018年1月から、メデジンにあるEAFIT大学の日本語コースに通い始めた。年間授業料は199万6000ペソ(約7万2000円)。これを自分の稼ぎから捻出する。余ったお金で、好きなビールを飲んだり、バットマンなどのフィギュアを集めたり、コロンビア・アマソナス県へ旅行したり、と趣味を充実させる。
将来の展望についてサンチェスさんは「コロンビア国内では、イラストレーターの需要はグラフィックデザイナーより少ない。ゆくゆくはイラストレーター一本で食べていけるようになりたい」と話す。