インド史上最高の首相と呼び名も高いのが、2014年に就任したナレンドラ・モディ首相だ。インド発展のために海外からの投資を積極的に呼び込みむなど、経済発展に力を注ぐ。だが実は、モディ首相が所属するインド人民党はヒンドゥー至上主義。多宗教国家インドで宗教分断が起こるのではとの懸念もある。名門ムンバイ大学の学生サッディヤムさん(19)は「モディ政権はまるでIS(イスラム国)のようだ」と批判する。
「モディは演説がとてもうまい。だから多くのインド人はモディが素晴らしい人間だと思っている」。これは、“妄信的なインドの世論”をサッディヤムさんが問題にした言葉だ。
ただモディ首相が国民から絶大な人気が得ているのは、演説のうまさだけではない。経済で結果を残しているからだ。モディ首相の目玉の政策は、海外資本の誘致。インド国内に海外メーカーの生産拠点を作ってもらい、多くのインド人の雇用を生み出してきた。インド経済は好調で、2018年7月の国内総生産(GDP)成長率は前年同月比で8.2%と高い。
だが「失策」もある。そのひとつが、2016年11月に実行した通貨改革だ。偽札の撲滅や富裕層の所得隠しのあぶり出しを狙って、たったの1日で高額紙幣を廃止。インド社会は大パニックに陥った。結果は旧紙幣の98%が新紙幣に交換されたことから、目的は達成できなかったとされる。市場に出回る通貨の量が一時的に激減したことで、2017年の経済成長率は失速した。
宗教面でも懸念がある。それは、イスラム教との対立を招きかねないことだ。インド人民党はヒンドゥー至上主義を掲げる。モディ首相自身も敬虔なヒンドゥー教徒として知られる。
インド人民党の政策は宗教の自由こそ認めるが、人口の8割を占めるヒンドゥー教徒寄りのものも目立つ。食肉用の牛の売買を禁止する法律を2017年5月に施行させたほか、ヒンドゥー教寺院の建設を公の場で約束することもある。
「インドにはいろんな宗教が共存する。それがインドの美しさだ。ヒンドゥー教(宗教)でインドをまとめるなんてISみたい」(サッディヤムさん)
言論の自由にも問題がある。インド国内のテレビや新聞などでモディ政権への批判はほぼ見られないという。「インド人民党がスポンサーについているからだ。政権にマイナスなことを言うと、非国民のように扱われる」とサッディヤムさんは嘆く。
モディ政権を支持する声はもちろん少なくない。ムンバイにある外資系企業の会社員ウルウィルさん(25)は「モディはインド発展のために海外からの投資を多く呼び込んでいる。それがインドの発展につながっている」と支持派だ。これに対してサッディヤムさんは、政策の成果が最も支援が必要な人へ届いていないことを問題視。「本当に必要なのは、田舎の貧しい農家の人たちを支援することなのに」と語る。
こうしたなかモディ首相は先ごろ、インド人口の4割を占める最貧困層に無料で医療保険制度を実施する、と発表した。大金持ち、貧しい人、ヒンドゥー教徒、イスラム教徒――一枚岩でない大国インドをどう舵取りしていくのか、人気首相の今後に注目だ。