【バンドン発深夜特急(5)】SNSで恋人の写真を載せまくる! インドネシア人の「他人の幸せを妬まない」性格を育んだのは協働の文化?

インドネシア・スラウェシ島マカッサルにあるハサヌディン大学に通うピッチャさんが、近隣住民と一緒に建てた家。男性が家を組み立て、女性が料理を作ることで、協力しあうインドネシア・スラウェシ島マカッサルにあるハサヌディン大学に通うピッチャさんが、近隣住民と一緒に建てた家。男性が家を組み立て、女性が料理を作ることで協力しあう

インドネシア人はインスタグラムに1日に何回もカップルのラブラブ写真を載せる。驚いたのは、周りのインドネシア人は嫌がるどころか、むしろ祝福すること。インドネシア人はある意味、日本人と違って、他人の幸せを素直に喜ぶ。今回は、日本人が忘れかけている「他人に共感する心」について、インドネシア人のSNS事情を通じて考えてみたい。

恋人の写真を見せびらかすのは浮気予防?

「I LOVE YOU」(インドネシア語ではなく英語で!)というキャプションとともにインスタグラムにアップロードされたカレシの写真――。インドネシア人のこうした行動は、SNSで何でもかんでもひけらかすタイプではない私からするとこの国に来た当初、衝撃だった。しかも一度だけでなく、そのアカウントは1日に次々と恋人の写真を更新し続けた。

なぜこんなに恋人を見せびらかすのか。妬む人はいないのか。不思議になって私の留学先のパジャジャラン大学(西ジャワ州バンドン)の女子学生ティアラさんに聞いてみたところ、「そんなことで妬むような人はほとんどいない」と軽く受け流された。

私にとっては、恋人の写真をSNSで公開するなんて絶対にありえないこと。プライバシーをあまり見せたがらない日本人の国民性からなのか、日本にたくさんいる草食系男子から妬まれるのが怖いのか‥‥いずれにしろ、インドネシア人のように恋人の存在をおおっ広げに見せびらかすことはしないし、したこともない。

納得いかない私がしつこく聞き続けると、インドネシア人が恋人の写真をアップする理由は2つあることがわかった。1つは恋人の存在を友だちに知らせ、浮気しないようにさせること。2つめは、幸せな感情をシェアしたいことだという。

「キスとか、やりすぎな写真でない限り、ネットにアップしても反感を買うことはない。だって恋人をもつことは素敵なことでしょ」。ティアラさんはこう話す。

この言葉を聞いて私は、他人の幸せを素直に喜べる「共感する心」をインドネシア人は強くもっていると気づいた。

「I LOVE YOU」の言葉とともにアップロードされた恋人の写真にも、「美男美女コンビだね」「幸せそうでいいな。羨ましい」といったコメントが数え切れないほど付く。

共感度が高いのは幸せだけではない。貧しさや病気といったマイナスなできごとにも、インドネシア人は同情する。

屋台に物ごいの人が訪れるたびに、店のなかの人全員が小銭を渡す。英国の慈善団体チャリティーエイド基金(CAF)の2017年世界寄付指数では、インドネシアはミャンマーについて世界2位にランクインした。世界寄付指数は、「人助け」、「寄付」、「ボランティアの時間の長さ」の3つの指数で構成する。

頭痛がひどかったせいで私がバンドンで入院した際も、ハサヌディン大学(スラウェシ島マカッサル)に通うピッチャさんが「なぜ入院しているの。重い病気なの」と心配し、連絡をくれた。ピッチャさんとはマカッサルで一度会ったきり、全くといっていいほど連絡もとっていなかった。インドネシア人は疎遠になった知り合いも心配し、同情してくれるのかと私はベッドの上で感心した。

お隣さんと協力して家を建てる!

インドネシア人が「他人に共感(同情)する力」をもつ背景には、「協働の文化」と「信仰心の強さ」の2つがあるのではないかと私は考える。

1つめの協働の文化を象徴する言葉が、インドネシアに根付く「ゴトン・ロヨン(協働)」だ。ゴトン・ロヨンとは「直接的な見返りを求めずに、全体の利益のためにお互いが助け合うこと」を意味する。この精神が、インドネシア人の「他人への共感」を後押ししている。

ピッチャさんは言う。「新しい家を建てるときに、近隣の住民が協力しあって完成させた。こうしたゴトン・ロヨンは、他人のことを考える習慣につながっている」。インドネシア人にとって協働は決して珍しいことではない。周りと助け合う習慣が体に染みついているからこそ、インドネシア人は素直に、他人が嬉しいと自分も嬉しくなるのではないか。

2つめの信仰心の強さも、インドネシア人の共感度の高さに関係がありそうだ。イスラム教やキリスト教の教えの中には、他人のことを思いやるように促す部分があるからだ。

教育者や学生に学習材料を提供するため世界中の情報をグラフやランキングで掲載するウェブサイト「ワールドアトラス」の「信仰心が強い国ランキング」では、インドネシア人の実に99%が「自分は信仰心が強い」と自負しているという。これはバングラデシュ、エチオピアに次ぐ世界3位だ。

そんな信仰心の厚いインドネシア人の人口のおよそ9割が崇拝するイスラム教の聖典コーランには「アッラーに仕えなさい。何物もアッラーには及ばない。父母に懇切を尽くし、また近親や孤児、貧者や血縁のある隣人、血縁のない隣人、道づれの仲間や旅行者、およびあなたがたの右手が所有する者に親切であれ」(婦人章36節)との記載がある。

インドネシアで、イスラム教に次いで影響力をもつキリスト教(人口の約10%を占める)の聖書の中にも「隣人を自分のように愛しなさい」との教えがある。インドネシア人の多くにとって、誰かの幸せを妬むことは神の意に背くことであり、他人事を自分のことのように共感することで信仰を実践しているのではないだろうか。

日本では最近、ZOZOTOWNの運営会社スタートトゥディの前澤友作社長と自家用ジェットを使ってサッカー・ワールドカップ(W杯)を観戦してきた写真を剛力彩芽がSNSにアップしただけで、大炎上した。対照的にインドネシア人は、インスタグラムにアップされた有名人同士のカップルの仲睦まじい写真に対し、羨ましがりはしても妬んだりしない。日本には、他人の幸せを素直に喜べない人が、あまりにも多すぎないだろうか。周囲の人の優れているところや良いところを素直に褒めたり、喜んだりするのが普通なインドネシア社会のほうがが生きやすいだろうなと少し羨ましく感じる。