ベナンの伝統菓子を現代風にアレンジ! 売り上げ3倍増のスタートアップ企業があった

ベナンの伝統菓子を高級化したレジス社長。「現代の社会は忙しい。仕事をしながらハンバーガーを片手間に食べるよりも、クリクリを食べてほしい。忙しい人の健康維持を助けたい」と語るベナンの伝統菓子を高級化したレジス社長。「現代の社会は忙しい。仕事をしながらハンバーガーを片手間に食べるよりも、クリクリを食べてほしい。忙しい人の健康維持を助けたい」と語る

西アフリカ・ベナンで“モダンな伝統菓子”を作り、毎年売り上げ3倍増の急成長を遂げるスタートアップ企業がある。同国最大の都市コトヌーに拠点を置くイリジウムサールだ。オリジナルキャラクターや商品宣伝ソングを作るなど、一風変わったブランド戦略を推進するのが特徴。アフリカでは珍しいこのやり方が奏功して、創業からわずか3年で、ベナン国内で知名度を高めてきた。

イリジウムサールは、ベナンで初めて、伝統菓子を「ブランディング」した会社だ。ブランディングの方法は、お菓子のキャラクターを作ったこと。名前は「ダイエリアン」。ベナン最大民族の言葉であるフォン語で「驚きを生み出すリーダー」という意味だ。ダイエリアンは、アフリカの伝統的な帽子をかぶり、西洋風の蝶ネクタイを身に着ける。創業者であるレジス・エジン社長は「アフリカ文化を世界に広げたいという思いをキャラクターに込めた」と語る。

イリジウムサールの看板商品で売り上げ全体の3割を占めるのは、ベナンの伝統菓子「クリクリ」だ。クリクリとは、ピーナツから作るお菓子。食感はカリカリで、味は大豆のよう。ベナンの女子大生は「クリクリはベナンで人気ナンバーワンのお菓子。私は毎日食べるよ」と話す。

同社が製品化するクリクリには2つのこだわりがある。1つめはサイズだ。市場や道沿いの店などで売られる伝統的なクリクリは、長さ約50センチメートルの細長い棒。イリジウムサールはそれを約1センチメートルの球状に劇的に小さくし、食べやすくした。

2つめのこだわりは、工場で作っているにもかかわらず、化学物質を一切使っていないことだ。添加物ゼロのクリクリをジップロック形式の袋に入れて売る。一般的にクリクリは屋外でむき出しで売られるため砂ぼこりや排ガスにさらされるが、同社のクリクリは衛生的だ。

同社はまた、工場スタッフ11人、事務所スタッフ30人を雇う。この7割が女性。とりわけ工場スタッフは11人全員が地方出身の女性だ。貧しい農家の女性に仕事を与えることは「ソーシャルインパクトがあると思う」(レジス社長)。

高品質の商品に生まれ変わらせたこともあって、価格は60グラム入りで1600CFAフラン(約320円)と、市場価格の約10倍もする。それでも売れ行きは毎年右上がりだという。

売り上げアップに貢献するのが、商品のユニークな宣伝方法だ。クリクリの歌や広告(動画)を作った。クリクリの歌は、ベナンの有名歌手ダロウブに依頼。約3分のミュージックビデオの中でダロウブが、同社のクリクリ製品がどう進化してきたかを歌に乗せてPRする。

広告はコメディタッチの動画だ。ベナンの男性2人が、プールサイドで女性1人を奪い合う設定。辛いクリクリを食べた男性が「おれは辛い物を食べられるんだ」と強さをアピール。女性を勝ち取るというストーリーだ。

同社が作る高級クリクリはベナン国内では、本社の1階にあるショップをはじめ、BSSやモンシナイ、シャドールといったスーパーマーケット、外国人が泊まるゴールデンチューリップやベストウエスタンなどの6つのホテル、8つのレストランで販売する。隣国トーゴのスーパーにも商品を置く。

レジス社長は「外国人の目にとまるところに高級クリクリを並べ、売っている。いずれはアフリカをはじめ全世界の人たちにクリクリを食べてもらいたい。ベナンのお菓子を通してアフリカ文化を世界に届けたいんだ」と展望を描く。(大野咲希子、成田丈士)