ミャンマーのLGBTが船でパレード、「同性愛は罪じゃない!」

鮮やかに彩られた4隻の船がエヤワディ川をゆく(ミャンマー・ヤンゴン)鮮やかに彩られた4隻の船がエヤワディ川をゆく(ミャンマー・ヤンゴン)

ミャンマーの最大都市ヤンゴンで1月18日、性的少数者(LGBTIQ)の権利をたたえるイベント「ヤンゴンプライド」が幕を開けた。オープニングを飾ったのは、エヤワディ川でのボートパレード。ミャンマー人の若者を中心に約1000人が参加。4隻の船の上でDJの音楽にあわせて踊った。ヤンゴンプライドの開催期間は2月2日までの2週間。ヤンゴン各地でLGBTIQに関する映画が上映されるほか、アートの展示などもある。

ボートパレードは2019年に続き2回目。参加者は前回の約600人から約1000人に、船も3隻から4隻に増えた。参加者の多くはミャンマー人だが、欧米人の姿も目立った。主催団体「&PROUD」は、ミャンマー人がチケットを優先的に購入できるよう、外国人のチケット枚数を制限するなど配慮していた。

ボートパレードの共同代表を務め、またミャンマー最大のLGBTIQの人権団体カラーレインボーのラミャットゥン副代表は「このイベントで伝えたいのは、LGBTIQは特別ではないということ。性別に関係なく、愛は愛。決して罪じゃない」と語る。

船上にはドラァグクイーンのようなきらびやかな格好をした人は数えるほどしかいない。大多数はシャツとズボンなど、街で見かけるような普通の格好をした若者だ。中年の参加者の姿もあった。大胆に肌を露出する人が少なく、抱き合ったりキスしたりするカップルもほとんど見られないのがミャンマーらしい。

ミャンマーには、同性間の性行為を禁止する刑法がある。違反すると10年以下の禁固刑だ。この刑が実際に執行されることは滅多にないものの、ミャンマー社会ではLGBTIQに対する差別は残っている。

ボートパレードに初めて参加した会社員のイェさん(21)は「自分はゲイだと自覚している。だが家族にも友だちにも打ち明けたことがない」と話す。「ミャンマーでは、男は男らしく強く生き、女性と結婚して子どもを育てるべき、という伝統的な家族観が根強い。同性愛は自然の掟を破るものとの考え方が一般的だ。たとえ家族でも、到底認めてもらえるとは思えない」

ミャンマー人の約9割が信仰する上座部仏教は、同性愛を明確に否定しているわけではない。だがボートパレードに参加した会社員で仏教徒のナインさん(20代)は「仏教徒の中には、前世で何か悪いことをしたからLGBTIQになった、と考える人が多いのも事実」と代弁する。

しかし風向きは変わりつつある。LGBTIQ団体は年々増え、自分のセクシュアリティをオープンにする若者も増えてきた。ヤンゴン市内のクラブは5年ほど前から毎月、LGBTIQのイベントを開く。クラブのDJは「ここ1、2年は、以前より盛り上がってきたと感じる」と言う。

ミャンマーのLGBTIQを取り巻く状況を考えるうえで、注目となった事件がある。同性愛を理由に同僚からいじめを受けていたミャンマーインペリアル大学(MIU)の職員(26歳)の自殺だ。2019年6月に起きたこの事件は国内外のメディアで大きく報じられた。SNSでも1万回以上拡散され、ミャンマーインペリアル大学には非難のコメントが何千件も寄せられたという。

これを受けて大学は謝罪の声明を出し、「性的指向に対する差別と嫌がらせは今後一切容認しない」と宣言した。ミャンマーのフェイスブックユーザーらは、プロフィール写真を黒い背景とレインボーの画像に変更し、追悼の意を表した。

とはいえまだまだ不十分。イェさんは「ミャンマーのLGBTIQはいまだに、自らの権利を獲得するために闘う機会がほとんどない。でもヤンゴンプライドのようにLGBTIQの仲間が集まるイベントを通し、LGBTIQではない人たちも含めて、一緒に闘っていく仲間が増えたら、こんなに心強いことはない」と笑顔を見せる。

イェさんの夢は、いつかパートナーと家庭を築き、子どもを育てることだ。

船上のパーティで盛り上がる参加者たち(ヤンゴン市内を流れるエヤワディ川で)

船上のパーティで盛り上がる参加者たち(ヤンゴン市内を流れるエヤワディ川で)

ボートパレードに参加したミャンマー人のLGBTIQたち

ボートパレードに参加したミャンマー人のLGBTIQたち

レインボーフラッグを掲げる伴走船(エヤワディ川)

レインボーフラッグを掲げる伴走船(エヤワディ川)