アジアの刑務所の収容率は200%以上、「新型コロナの流行は重大なリスク」と人権団体

狭いスペースに数十人の受刑者が詰め込まれるアジアの刑務所。新型コロナの流行を防ぐのは至難の業だ(Unsplash)狭いスペースに数十人の受刑者が詰め込まれるアジアの刑務所。新型コロナの流行を防ぐのは至難の業だ(Unsplash)

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は4月6日、東南・南アジアの過密で不衛生な刑務所・拘置所の状況は、受刑者・被疑者や職員、周辺の住民らを新型コロナウイルスに感染させる重大なリスクにさらしている、と警鐘を鳴らした。インドネシアやカンボジア、バングラデシュの刑務所の収容率は200%以上。ジョン・シフトンHRWディレクターは「政治囚や軽犯罪で収容中の人たちを釈放し、受刑者・被疑者の数をすぐに減らすべきだ」と指摘した。

■感染リスクは100倍

世界保健機関(WHO)が発表した「刑務所内COVID-19発生防止ガイドライン」によると、新型コロナの感染を防ぐために刑務所・拘置所で重要なのは、人と人の距離を常に少なくとも1メートル離すこと。新型コロナの陽性者や濃厚接触者を隔離するのも重要だ。だが収容率200%以上の刑務所ではそれも難しい。

赤十字国際委員会(ICRC)によれば、低所得国や紛争地の刑務所・拘置所ではせっけんや塩素剤などが手に入らないという。清潔な水もぜいたく品で、常にあるとは限らない。建物の風通しも悪い。また医療も満足に受けられないため、感染症はすぐに広がる。

WHOの刑務所健康ガイドラインは、結核に感染するリスクは、コミュニティーの中で暮らすよりも刑務所や拘置所にいるほうが100倍高いことを示している。

こうした事情から、刑務所・拘置所の受刑者・被疑者の人数を減らすために、HRWが「釈放を検討すべき」とアジア各国の政府へ提言する対象は下のとおり。

・高齢者、妊娠中の女性・持病がある人

・子どもと一緒に収容されている女性、子どもの保護者
・コミュニティーに住む人たちも利用する施設で日中働く人
・刑期の終了が目前に迫った人
・暴力を伴わない軽い犯罪の容疑で逮捕されて裁判を待つ人
・逃亡のおそれが高くない人

シフトン氏は「受刑者らの健康を守るのを怠れば、アジア各国の政府は今回の感染爆発を食い止められなくなるだろう」と警告する。

 

■外出禁止令で4万2000人逮捕

新型コロナの流行に伴って刑務所・拘置所の過密がより悪化した国が、フィリピンだ。外出禁止令に違反した容疑で逮捕される市民が相次いだためだ。

フィリピン政府は3月17日から、マニラ首都圏を含むルソン島でロックダウン(封鎖)を始めた。フィリピン国家警察によると、夜間外出禁止令による逮捕者は3月17~27日の11日間で4万2826人を数える。

4月1日には、マニラ首都圏のロックダウンで収入を失い、飢えつつある市民およそ500人が反政府デモを強行。21人が逮捕される事件が起きた。

捕まった人には未成年も含まれる。HRWによれば、犬の檻に閉じ込められたり、真昼の太陽の下で何時間も座らせされたり、といった非人道的な扱いを受けることもあるようだ。

フィリピンは、刑務所・拘置所の収容率(定員に対する収容者の割合)が世界で最も高い。ICRCの2020年3月24日の報告では、フィリピンにある467の刑務所の収容率は534%だ。マニラ郊外にあるニュービリビッド刑務所の病院長は「この刑務所に収容される人の2割に当たる約5200人が、過密に起因する結核や暴力などで命を落とす」と語る。

■裁判を受けられない収容者たち

HRWによると、アジアの刑務所が過密となるのは、収容される被疑者の数が多いからだ。裁判が始まるまで拘置所に収容され、数カ月から数年も待たされる。

ロンドン大学バークベック・カレッジの犯罪政策研究所(ICPR)のデータでは、刑務所・拘置所に収容されたままで裁判の開始を待つ人の数は世界217カ国・地域で290万人以上。アジアの数字は2000年以降、急増しているという。

フィリピンでは、刑務所・拘置所の収容者の75%が有罪判決を言い渡されていない。バングラデシュとインドもそれぞれ80%、67%と高い。

有罪判決が出ていない収容者の割合が71.9%と急増するカンボジアではこのところ、刑務所・拘置所内で妊婦と幼児の数が増えていることが問題視されている。カンボジアの人権団体 LICADHOによると、2017年1月から2019年8月までに刑務所・拘置所で収容される妊婦と幼児の数は220%増加。1000ドル(約10万7700円)の賄賂を払えば釈放されるが、ほとんどの被疑者はお金がなく、払えないのが現実だ。

LICADHOが調査したカンボジア人女性のカンハさんは、裁判が始まる前の8カ月間、拘置所に拘留された。「最初に送られた独房には100人以上の受刑者が詰め込まれ、息もできないほど。とても暑く、蚊がたくさんいた。振り向くことさえできなかった」と、当時妊娠1カ月だったカンハさんは語る。