コロナ危機が縫製工場の労働者を襲う! 「アパレル企業の9割が下請けへの支払いを拒否」と人権団体

バングラデッシュ・ダッカの街並み(Alit SahaによるPixabayからの画像)バングラデッシュ・ダッカの街並み(Alit SahaによるPixabayからの画像)

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は4月1日、新型コロナウイルスの影響で、アジアの衣類産業に従事する数百万人の労働者が仕事を失う可能性があるとの声明を発表した。景気の悪化を懸念して世界的なアパレルブランドや小売業者が縫製工場への発注をキャンセル。すでに生産に入った製品も買い取らないといったケースが多発している。HRWのアルナ・カシャップ上級顧問は「大手アパレルブランドはサプライチェーンを支える労働者とその家族を見捨ててはならない」と警告する。

■100万人が職を失う

米国のペンシルベニア州立大学がバングラデシュの縫製工場に対して実施したアンケート調査によると、発注をキャンセルしたアパレルブランドの72%が原料費用を補償せず、91%が製品の縫製加工賃金を払っていない。バングラデシュの縫製労働者のうち約100万人がすでに一時的解雇、または停職処分を受けた。発注をキャンセルしたアパレルブランドの95%以上は、失業した労働者に対して退職金や休業中の賃金補助の支払いを拒否している。

ミャンマーでもすでに2万人の労働者が職を失った。その数字は4月上旬には9万人にも膨れ上がるとミャンマーのメディア「ザ・ボイス」は予想する。カンボジアでも20万人の縫製労働者が失業する可能性がある、と繊維衣料の専門ニュースサイト「MCLニュース&メディア」は懸念する。

■「交渉の余地はない」

発注がキャンセルされ、補償も支払われない背景には、アパレルブランド側と縫製工場側の間での不平等な関係がある。HRWの調査によると、カンボジアの縫製工場の元マネージャーは「アパレルブランドはあらゆる支払い期限と条件を一方的にこちらに課す。そこに交渉の余地はない」と話したという。

アパレルブランドが発注価格の一部を事前に支払えば、縫製工場はそれを原料の調達費に当てることができる。ところが世界のサプライチェーンを調査する組織「ベターバイイング」の報告によると、アパレルブランドや小売業者の73%はこうした前払いをしない、またはアパレル側に有利な契約になっているという。

国連が提唱する「ビジネスと人権に関する指導原則」や、経済協力開発機構(OECD)が出すガイドラインなど、縫製工場や労働者の権利を提唱する指標はあるが、守られていないのが現状だ。

■ユニクロも無回答

縫製工場に対するアパレルブランドの対応はさまざまだ。スウェーデンの大手アパレルブランドH&Mは3月29日、バングラデシュで発注したすべての衣類を買い取ると決めた。アパレルブランドZARAを運営するインディテックスも契約先の縫製工場が作った製品すべてを買い取ったと発表した。

だがペンシルベニア州立大学の調査(3月27日)によると、アパレルブランドのほとんどは下請け先に対する対応を明確にしていない。ユニクロなどを運営するファストリテイリングも、ニュースメディア「クオーツ」の質問に対して3月21日までに返答していないという。

バングラデシュにある約4500の縫製工場が加盟するバングラデシュ衣料生産輸出協会のルバナ・フク会長はリンクトインのパーソナルページでこう嘆く。「先月(2月)までパートナーだったアパレルブランドはいつの間にか他人になってしまった。410万人の労働者の賃金が払えないという迫りくる危機をなぜ理解してくれないのか」