【「新型コロナと途上国」セミナー報告①】レソト・ウガンダ・バリ島で活動する日本人が語ったリアル

ケニアのアーティスト、グランドサンさんがナイロビのキベラ地区で描いたグラフィティ。地球がマスクを被っている。新型コロナウイルス感染症の予防意識を高めることが目的だ。2020年3月23日に撮影(Yasuyoshi CHIBA / AFP)ケニアのアーティスト、グランドサンさんがナイロビのキベラ地区で描いたグラフィティ。地球がマスクを被っている。新型コロナウイルス感染症の予防意識を高めることが目的だ。2020年3月23日に撮影(Yasuyoshi CHIBA / AFP)

「新型コロナと途上国」と題するオンラインセミナー(主催:有志ら)が5月23日に開催された。途上国でCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の対応に当たる国連組織やNGOの職員など日本人7人が登壇。コロナの情報が行き届かない僻地の事情や、そこで活躍する地元のボランティアたちの姿、また弱者の声をくみとろうと奮闘する支援者たちの試みをおよそ300人のオーディエンスに共有した。

■コロナって何なの?

まず話題にあがったのは「情報」についてだ。新型コロナの情報はウイルスを超える勢いで拡散している。だが、途上国ではもともとメディアや通信環境が整っていない。このため情報に届かない人たちが少なくない。

南アフリカ共和国に周囲をかこまれた九州ほどの小国、レソト王国の現状を語ったのは、世界銀行の石原陽一郎・駐レソト代表だ。「レソトはもともとメディアが弱い。新聞も1週間に1回しかない。首都から2~3時間行くと、コロナって何?というレベルの農村部もある」。インターネットどころか電気がない地域もあり、情報にアクセスできない人が少なくないという。

レソトではまた、支援者側も、助けが必要な人たちの情報を得るのに苦労している。新型コロナが流行する前から国民の半数は貧困層。4分の1が食料難に陥っていた。失業率は25%、成人のHIV陽性率は23%にものぼる。

こうした現状から石原氏は「誰が(もっとも支援すべき)弱者なのかを特定するのさえ難しい」と話す。またほとんどの家にネット環境がないため、政府関係者とのビデオ会議も開催できない。連携して支援するのも困難という。

しかしレソトには強みもある。まず、村に保健ボランティアがいたこと。約20世帯ごとに1人おり、新型コロナに関する情報は住民に口伝えで回している。また人口が約200万人と少なく、そのほとんどが国民IDカードをもっていることも利点だ。かねてからこのカードを使って支援の必要な人を特定するシステムが機能していた。石原氏は新型コロナの流行を契機にこの支援システムをより充実させ、今回の感染症だけでなく今後の危機や災害にも備えたいと語る。

■女性は携帯をもっていない

ウガンダ北部にある南スーダン難民キャンプで活動するNGO「難民を助ける会(AAR Japan)」の藤田綾氏は、難民居住地の中にも情報格差があると指摘する。

「情報を得る手段である携帯電話をもっているのは、主に男性。女性は情報弱者。またラジオを買ったり、スマホの通信料を払ったりするための現金収入があるかどうかによって、得られる情報に差が生じている」

こうした状況に対し、AARが現在取り組もうとしているのは、住民の中の難民リーダーを活用した情報伝達のしくみづくりだ。NGOから正しい知識を得た難民リーダーらが、それを現地語で他の住民に伝える。これにより女性や高齢者など、情報から取り残されがちな人にも、確実に情報を届けられると藤田氏は期待する。

住民のこうした潜在力は、他の地域でも発揮されている。AFP通信の千葉康由チーフフォトグラファーが紹介した写真には、スラム住民らの力強い姿があった。

アフリカ最大のスラムといわれるケニア・ナイロビのキベラスラムで暮らす人たちの写真は、保健ボランティアが住民らに手指消毒剤を少しずつ分けている様子を映していた。消毒剤だけでなく、手洗いの重要性も伝えているという。差し出した手に消毒剤を垂らしてもらう少女のワクワクしたような笑顔が印象的だ。

また、スラムに住むアーティストらは、カラフルな絵を家の壁などに次々に描き始めたという。千葉氏が撮った写真には、マスクをつけて涙を流す地球の絵を描く男性の姿が。その絵には「ともにコロナと闘おう」と英語で添えられていた。このほか、カラフルな布の端切れでマスクをつくり、道端で無料で配る24歳のファッションデザイナーの姿も紹介した。

■経済指標より「家計調査」を

インドネシアのバリでは、新型コロナの流行で主要産業の観光業が大きな打撃を受けた。コロナ前の3カ月(2019年10~12月)と、その後の3カ月(2020年1~3月)を比べると、観光業の経済は15%のマイナスだ。

だが、こうした“大きなデータ”からは本当に支援を必要とする人の姿は見えないことが多い、とバリで活動する米国NPOコペルニクの中村俊裕・最高経営責任者(CEO)は指摘する。「声が大きいところには支援が集まりやすいが、声が上げられない人たちの情報をどうくみ上げるのかが課題だ」

そこでコペルニクは、住民への経済的な影響を詳しく知るため、バリ州の各県で計77世帯に簡易調査を実施した。その結果わかったのは、収入の減少率に性差や地域差があることだ。

たとえば、男性は減少率が52%だったのに対し、女性は67%。また、会社員などのフォーマルな仕事をする人の減少率は52%だったが、路上の物売りなどインフォーマルな仕事をする人では65%。地域によっても、収入が60%以上減ったところもあれば、30%未満のところもあった。

中村氏は「こうした(小さな)情報は、政府もまだ把握していない。調査結果を今後は政府やNGOに共有し、より支援が必要な人へのサポートを促していきたい」と意気込む。(続く