【「新型コロナと途上国」セミナー報告②】エイズ・結核・マラリアの死者は400万人になるかもしれない

新型コロナが流行する前のチリ・サンティアゴの旧市街。路上のパフォーマンスを見ようと週末には人だかりができる(2019年8月撮影)新型コロナが流行する前のチリ・サンティアゴの旧市街。路上のパフォーマンスを見ようと週末には人だかりができる(2019年8月撮影)

およそ300人が参加したオンラインセミナー「新型コロナと途上国」の報告第2弾(前回はこちら)。今回取り上げるのは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の予防対策による移動制限を受け、エイズや結核など別の感染症の死者が倍増する危険性、資金力によって差が出る再開できる学校とできない学校の問題などだ。

■途上国にワクチンは届くのか

世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の國井修氏は「3大感染症(エイズ・結核・マラリア)の死者は毎年200万人。コロナよりずっと多い。だがコロナの影響でその数は2倍になるといわれる」と警鐘を鳴らす。

その理由は、移動制限や新型コロナへの対応で医療従事者や地域の保健ボランティアが動けず、「最大で80%の感染症対策プログラムが実施できなくなった」からだ。また各国が輸出制限をかけたことで、「必要な薬や物資などが現場に届いていない」。

國井氏はまた、新型コロナのワクチンの可能性についても言及。「大きな期待はできない」との否定的な見方を示した。

國井氏によると、これまで世界で100以上の新型コロナに効くワクチン候補があがり、7つが臨床治験に入ったという。「だがワクチン開発はこれまで最速でも4年かかっている。エイズワクチンは、時間と費用を相当かけているが、まだ開発できていない。やっとできたマラリアワクチンも効果は40%」と説明する。

とはいえグローバルファンドは、治療薬やワクチンが開発されたときのために準備は怠らない。製造元になる可能性が高い先進国に薬が独占されることなく、途上国の人たちのもとに届けるためだ。製薬会社とすでに交渉を進めているという。

國井氏はさらに、新型コロナを契機に、感染症対策のやり方そのものを見直すべきではないかと主張する。

「現在は病気の種類ごとに、タテに対策するのが主流。だが資源の少ない国では、病気ではなく、その地で暮らす『人』にフォーカスする必要がある。たとえば手を洗えば、コロナだけでなく下痢や結核など他のいろいろな病気も予防できる。病気を防ぐためには、人々の行動や生活をどう変容させるか、いわば『人間開発』を考えていくべきではないか」

■お金がない学校は再開できない?

子どもの教育機会では、新型コロナで格差が広がるとの懸念がある。国連児童基金(UNICEF)チリ事務所の青木佐代子氏は「チリの教育はこの30年で、子どもの就学率がほぼ100%になるなど、大きく改善してきた。しかしコロナで経済状況が悪化したことで、それが30年分くらい後退するといわれる」と話す。

経済的な打撃がなぜ、教育格差を拡大させるのか。青木氏によると、チリでは学校によって運営資金にバラつきがあるという。そのため資金力のある学校はコロナ対策のための設備投資や、ソーシャルディスタンスを保つためのダブルシフト(2部制、3部制)を導入できる。だが資金がない学校はこうした対策をとれず、再開できない可能性がある。

「学校から離れている時間が長いほど、子どもが学校に戻るのは難しくなる。貧困家庭、移民、障害児などは特に取り残されやすい。経済力にかかわらず、すべての子どもがなるべく早く学校に戻れるよう支援する必要がある」(青木氏)

■民間へのODA拠出はどうなのか

苦境に陥る途上国に対して日本が果たすべき役割は何か。オンラインセミナーで登壇した山内康一衆議院議員(立憲民主党)は次のように説明する。

日本政府は、コロナ対策の政府開発援助(ODA)支出におおむね前向きな姿勢だという。一次補正予算では840億円のODAが、UNICEFなどの国際機関へ拠出されることが決まった。

だが新型コロナが流行するなか、外務省が進めてきた「顔の見える援助」には限界があると山内氏は指摘する。国際協力機構(JICA)の専門家もほとんどが帰国しているいま、直接支援にこだわるとコロナ対策を進められないからだ。

そこで山内氏が提言するのは、ODAを、医療や教育などの途上国の公的サービスや、感染症関連などの国際基金に資金を出すこと。ODAは近年、途上国で事業を始める民間企業などに投入される割合が増え、途上国の政府など公的機関への拠出には消極的になっている。

「しかし公衆衛生の知識を途上国に浸透させるためには、まず基礎教育が必要。日本企業の海外進出のお手伝いではなく、教育や保健などの基礎的なニーズにODAは大きな割合を割くべき」(山内氏)

UNICEFの青木氏はオーディンエスにこう問いかけた。「『コロナが終息したら普通に戻る』というけれど、『普通』とはどんな社会だっただろうか。コロナ前も、すべての子どもにとって公平な社会では決してなかった。コロナの後の社会は、世界のすべての人にとって公平な社会にしたい。ぜひ皆さんにも考えてほしい」。(おわり)