ダンスを通じて子どもの可能性を広げたい――。こう意気込むのは、アフリカと日本の小学生をスカイプでつなぎ、ダンスを通じた交流をサポートしてきた中込孝規さん(29)だ。中込さんは2016年10~12月、アフリカ3カ国の小学校を訪問し、各地でダンス教室を開催してきた。
■きっかけは世界一周
活動を始めたきっかけは、大学を卒業した後に4年勤務した大手教育系企業ベネッセを退職し、2014年4月~2015年11月の世界一周の旅に出たことだった。高校生の時からストリートダンスにのめりこんだことから、「1万人の子どもたちにダンスを教えながらの世界一周」というテーマで世界各地を渡り歩いた中込さん。「世界中に友だちができ、自分の世界が広がった。ダンスには言葉や国境を超えて心を通じ合わせる力があることを実感した」と言う。
帰国後は日本各地の小学校やダンススクールを講演して回った。そんな中、「より多くの日本の子どもたちに自分と同じ経験をしてほしい」との思いから2016年10月、アフリカのガーナ、ルワンダ、ウガンダに渡航。アフリカと日本の子どもたちをスカイプでつなげて一緒にダンスを踊った。
「子どもたちと一緒に感動を味わうことができた」と中込さん。3カ月間の滞在で開催したダンス教室は計40回に上る。約150万円の渡航費用はクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で集めたという。
■ダンスは国境を超える
中込さんが開催するダンス教室の内容は、まずダンスを相互に見せ合い、その後ひとつのダンスを一緒に踊るというもの。最後はお互いの好きな食べ物などについて質問しあう。
ダンス教室の参加者は各回、日本とアフリカでそれぞれ20~30人ほど。中込さんは「ダンスで子どもたちの心が通じ、両者の間に壁がなくなった。ダンスの後はお互いが相手のことに興味津々で、個人的な質問が積極的に飛び交った」と活動の成果を振り返る。
日本の子どもたちの心境にも大きな変化があった。ウガンダの小学生との映像中継を請け負った奈良の小学校教諭は「ダンスの後、『ウガンダの小学校ではどんな授業があるんですか』という日本の子どもたちの質問に対し、ウガンダの子どもたちが『宗教』と答える場面があった。日本の子どもたちは宗教の授業があることに驚いたと同時に、世界にはいろんな宗教があることを実感できた」と語る。
1カ月で同じ振り付けを覚え、日本の小学生と同時に踊ってひとつのダンス作品を作るワークショップを開いたルワンダの小学校では、上手くいかないこともあった。
中込さんは「最初はルワンダも日本の子どもたちも恥ずかしがり、上手く意思疎通がとれなかった。『子どもたち同士で交流してほしい』という私の思いと『単純に楽しいことがしたい』というルワンダの子どもたちの思いがすれ違い、気持ちがぶつかり合うことがあった」と当時を振り返る。
だが2週間経つと変化が表れた。言葉が分からないにもかかわらず、子どもたちだけでダンスを教え合い、練習するようになったという。中込さんは「ワークショップが進むにつれて、子どもたちの表情が輝きを増していくのが分かった。ワークショップの終了後も交流は続き、日本の子どもたちにとってアフリカが遠い場所ではなくなった」とダンスがもたらした変化を強調する。
■一歩を踏み出そう!
これまでの活動で、ダンスが生み出す変化を実感してきた中込さん。「ダンスが一緒に踊る相手に興味をもつきっかけになればいい」というのが中込さんの持論だ。「一緒にダンスを踊ることで相手との距離が縮まり、『相手を知りたい、相手に伝えたい』という気持ちが強くなる。相手の素が分かることでお互いを認め合い、人生を楽しく生きる子どもたちが増えるのでは」と熱い思いを口にする。
活動のターゲットは子どもだけではない。中込さんは「以前はやりたいことがあっても行動に移すことができず、悶々としていた。そんな時、周囲の応援で一歩を踏み出すことができた。今度は自分が、一歩踏み出そうとする人の背中を押したいと思って活動している」と胸中を明かす。
今後は神奈川県平塚市に「世界とつながるダンス教室」をオープンし、この4月からレッスンを開始する予定だ。