ネパールの首都カトマンズの近郊で国際協力NGOピースウィンズ・ジャパンが支援する農家が、新型コロナウイルスのロックダウン(全国封鎖)の影響で、農薬や種を入手できない事態が起きている。同団体のネパール事業責任者の山本裕子氏は「唯一の足であるバスもすべて運休中。何十キロもあるキュウリを背負って、家から卸先の店まで山道を数時間歩かなければならない農民もいる」と語る。
■3カ月後の収穫がなくなる
農村部の生計向上プロジェクトをピースウィンズが展開するのは、カトマンズから車でおよそ3時間行ったところにあるシンドゥパルチョーク郡。標高700~1800メートルの山間部だ。ここで暮らす471人の農民を対象にピースウィンズは、土作りやトマトの栽培方法などを指導してきた。
ところが新型コロナの感染防止を目的にネパール政府は3月24日、ロックダウンを宣言。5月中旬にはトラックをはじめとする物流もストップ。カトマンズからシンドゥパルチョーク郡へも当然、何も運ばれなくなった。
こうした措置を受け、シンドゥパルチョーク郡の農家は窮地に陥る。農薬や肥料、種が手に入らなくなったからだ。郡内にある農業資材店では、在庫が少なくなったという。
ネパールでは現在、郡から郡への移動が原則禁止だ。移動許可証を得れば可能となるが、「コロナ禍で役所はひっ迫している。取得には2週間以上かかる」と山本氏は事情を説明する。
肥料と種が手に入らないと、次のシーズンに向けた苗づくりはできない。シンドゥパルチョーク郡の農家は通常であれば、次のシーズンに向けてオフシーズントマト(旬でない時期のトマト。高値で売れる)の苗づくりをする時期だ。トマトは雨に濡れるとうまく育たない。そのため、5月からの雨季に入る前に、雨よけのビニールハウスを作り終え、苗づくりを始める。
「苗づくりのタイミングに間に合わなければ、オフシーズントマトは栽培できない。3~4カ月後の収穫も無理。ロックダウンの最中だけでなく、その後の収入も減る」と山本氏は心配する。
ロックダウンの影響はこれだけではない。
バスもすべて運休となったため、シンドゥパルチョーク郡の農家にとっては、育てた野菜を売るのも難しくなった。畑から販売先まで歩くと2~3時間かかる農民もいる。しかも山道が続く。時には数十キロの野菜を背負うことも。
山本氏は「バイクや車は高価だから、持っていない農家がほとんど。バスは農家にとって貴重な足。販売先まで歩いて行けない場所に住む農民は、せっかく育てた野菜を売る手段を失った」と話す。
■トマトが栽培できない!
ピースウィンズはこの状況を受け、水やりに必要なチューブやタンクなどの農業資材を、2回に分けてカトマンズからシンドゥパルチョーク郡まで運んだ。すべて無料で農家に配ったという。
だがその2回を最後に、農業資材の運搬はストップした。移動許可証が突如、ネパール政府の政策転換で無効となったからだ。再取得にはまた3週間以上かかる。
今後について山本氏は「ロックダウン中であっても、必要なタイミングで必要な農業資材をいかに調達できるかが、3~4カ月後の収入に影響する。収入の損失をゼロにするのは難しいけれど、できるだけ減らせるようサポートしたい」と語る。
ネパール政府は5月30日、当初は6月2日までを予定していたロックダウンを、14日まで延長すると発表。新型コロナの感染者は6月10日時点で4085人、死者は15人に上る。感染者が急増した原因は、インドや中東に出稼ぎに出ていたネパール人の多くが帰国し始めたことだといわれる。