シエラレオネの新型コロナ対策にエボラの教訓が生きていた! IOM職員が報告

シエラレオネではIOMスタッフらが「STOP COVID19」と書かれたTシャツを着て、予防の啓発活動を続ける(右上の画面は赤尾さん)シエラレオネではIOMと連携している地域啓蒙ボランティアが「STOP COVID19」と書かれたTシャツを着て、予防の啓発活動を続ける(右上の画面は赤尾さん)

国際移住機関(IOM)日本人職員2人が6月27日、オンラインセミナー「国境を超える感染症」(主催:英国開発学勉強会/IDDP)に登壇した。IOMはエボラ出血熱がシエラレオネを含む西アフリカで2014~15年に大流行したあと、国境沿いに検疫所を建てたり、村の住民が自ら感染兆候をチェックして保健所等に報告する仕組みをつくったりといった活動を実施。登壇者は、これらが新型コロナウイルスの感染を食い止めることに役立っていると述べた。

■人の移動を追え!

IOMがまず着手したのは、人の移動を反映させた地図の作成だ。ウイルスは人が動くことで拡大する。そのため日常的にどのぐらいの人数がどこに移動するか把握しておけば、将来ふたたび感染症が発生した際、優先的に活動するポイントを迅速に検討することができる。

IOMシエラレオネ事務所でエボラ終息後、保健システムづくりに携わった仲佐かおいさん(現在はIOM中東・北アフリカ地域事務所の地域COVID-19コーディネーター)はこう語る。

「エボラ出血熱の感染者が最初に出たのは、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国が接する国境付近。その後、人の密集する都市に広がった。そのころにはもう、感染拡大を止めるには手遅れになっていた」

シエラレオネでは最終的にエボラ出血熱の感染者は1万4000人、死者は4000人近くに上った。

地図づくりは、こうした事態を二度と起こさないための予防策だ。仲佐さんらはGPSを片手に、地図にはない道や市場、教会などがどこにあり、いつどのくらいの人数が移動するのか、地元住民に聞いてまわった。人口が密集する場所は地図上に黄色い丸で示し、いつ感染症が発生してもすばやく動き出せる体制を整えた。

■感染症をコミュニティでチェック

仲佐さんらはあわせて、国境沿いにある国境管理事務所や周囲の医療施設を巡回した。防疫対策がきちんとなされているかをチェックするための国際保健規則(感染症の世界的流行を予防するために必要な対策を、世界保健機関(WHO)が定めたもの)に沿って、手順にのっとって防疫対策されているか、トレーニングを受けた人材がいるか、隔離室はあるか、などを確認。基準に満たない施設にはIOMが機材や研修を提供し、防疫機能を高めた。

陸路の入国ポイントには検疫所も建設。シエラレオネ北部の、ギニアとの国境ポイント5か所では、それまで草むらや沼があるのみで、検疫はおろか人の往来さえチェックされていなかった。そこでIOM は、入国管理などの機能もあわせもつ検疫施設を建設。これによりシエラレオネとギニアとの国境で、感染症の流入を抑えることができるようになった。

とはいえ、シエラレオネの保健システムは脆弱だ。医療者の絶対数も少ない。例えば、北部のある県では20万人の住民に対し、公的病院の医師はたった2人。これでは医療者が実施できる検査の数は限られてしまう。そこでIOMは、村の住民らが互いの症状をチェックし、自ら感染症の発生に気付けるよう、保健所のスタッフを介して住民に研修を実施した。

村人によるチェックの特徴は、体温などでなく、見た目でわかる「症状」でスクリーニングすること。住民ボランティアが「下痢」や「嘔吐」など11項目の問診票を使い、症状のある人の有無を確認。該当者がいた場合、保健所にその情報を伝える仕組みだ。

■シエラレオネの新型コロナ対応は素早かった!

もうひとりの登壇者、赤尾邦和さん(若者の職業訓練・起業支援事業プロジェクトマネージャー。IOMシエラレオネ事務所のCOVID−19対策事業コーディネーターも兼務)は、エボラ終息後のIOMのこうした取り組みについて「現在のコロナ対策にも役立っている」と話す。

エボラ出血熱の流行後にIOMがギニアとの国境沿いに建設した検疫所には、感染症が隣国から入ってくることを見越して、隔離室も設置していた。このおかげで新型コロナの感染者に対しても、国境からの流入を防ぐ砦となっている。

住民自らが症状をチェックする仕組みなど、ソフト面での活動は、エボラ出血熱の危機が去った後は中断していた。だが新型コロナの感染拡大に伴い、この仕組みが再開。エボラ出血熱の際に活躍した住民啓蒙ボランティアや、国境での保健ボランティアとは今も協力体制があるため「リフレッシュトレーニング(以前学習した内容を復習する短期研修)のみでスムーズに再開できた」と赤尾さんは語る。

エボラ出血熱と違い、無症状の感染者が多い新型コロナの場合「症状」でのスクリーニングは難しい。それでも、村の住民から保健所への情報伝達ルートを確立しておけば、いざ村で感染の兆候が見つかったときに、迅速な対応に繋がる。

シエラレオネ政府もエボラ出血熱の経験を経て、感染症への対応力を高めていた。同国では、新型コロナの初めての感染者が確認された3月31日より3週間も前に、コロナ対策計画を作成。さらに3月21日には国際線の発着を停止し、24日には国家緊急事態を宣言するなど、その対策は感染拡大に先んじていた。

3月31日には、すべての公立学校を閉校した。エボラ出血熱が流行した時にも閉校を経験していた同国政府は、すぐに算数や国語などの授業をラジオで放送。同国ではインターネット普及率が低く、8割以上の世帯でラジオが使われているためだ。

7月4日現在、シエラレオネでのコロナ感染者は1533人、死者は62人にとどまっている。

このセミナーを主催した英国開発学勉強会は、英国で開発分野に関心をもつ日本人学生による非営利団体。開発分野の一線で活躍する講師による勉強会や、外務省との共催セミナーなどのイベントを運営する。2020~21年度の運営メンバーを募集中。

問診表を使い、自らの感染兆候をチェックするシステムについて研修を受ける保健所のスタッフ(右上の画面は仲佐さん)

問診表を使い、自らの感染兆候をチェックするシステムについて研修を受ける保健所のスタッフ(右上の画面は仲佐さん)

シエラレオネ北部にある国境の町サンヤにIOMが建設した検疫施設。ギニアからのコロナ感染者の流入を防ぐ砦となった

シエラレオネ北部にある国境の町サンヤにIOMが建設した検疫施設。ギニアからのコロナ感染者の流入を防ぐ砦となった