【翻弄される西サハラ(3)】モロッコが進める再生可能エネ開発は「新たな植民地政策だ!」、NGOが批判

西サハラの首都エルアイウン近郊のフォーメルオエッド風力発電所。リン鉱石を採掘するための電力を供給する。モロッコによるリン鉱石の搾取がかねてから問題となっている(写真提供:ウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ)

「再生可能エネルギーは環境に優しいが、西サハラでの開発はモロッコの支配を強め、和平プロセスをますます困難にさせる」。こう批判するのは、モロッコ政府の資源の乱用をチェックするNGOウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ(WSRW)のサラ・エイクマンス国際コーディネーターだ。モロッコ政府は西サハラで5カ所の再生可能エネルギーの発電所を稼働させ、つくった電気をモロッコへ送る。(連載の第1回第2回

35%は西サハラから

モロッコ政府は、風力発電所3カ所と太陽光発電所2カ所を西サハラで稼働中だ。これ以外にも6カ所で計画、建設を進める。すべての発電所が稼働した場合、発電能力は約140万キロワットになる。これは日本にある風力・太陽光発電の発電能力の約10%に相当する。モロッコ国内の再生可能エネルギー需要の35%が西サハラでまかなわれる計算だ。

問題は、西サハラでつくる再生可能エネルギー電気が、西サハラの主権者であるサハラーウィ(古来から西サハラに住む人々)に還元されず、モロッコ政府に利用されることだ。モロッコの政府機関である国家電気飲料水事務所(ONEE)は、西サハラで発電した電気を発電所から買い取り、西サハラにあるモロッコ企業やモロッコ国内に送る。

モロッコのシンクタンク「ポリシーセンター・フォー・ニューサウス」はこう予測する。「南部州地域(西サハラ)の電力需要は12万キロワットほど。今後、風力発電だけで100万キロワットの余剰が生まれる。余った電気は(モロッコ国内の)他の州で使われたり、南欧に輸出されるだろう」

欧州連合(EU)裁判所は2015年から2018年にかけて、サハラーウィの同意なしでの西サハラの資源の利用は認められないとの裁定を4回にわたって出した。EU委員会やアフリカ連合も同様の見解を示す。モロッコ政府はこれを無視し、西サハラの電気を域外に送る。

エイクマンスさんは“資源としての電気”のチェックの難しさをこう語る。「リン鉱石や海産物と違い、電気は産出場所を特定できない。モロッコ国内の送電線に送られたらおしまいだ」

2年で輸出入が逆転

モロッコ政府は、再生可能エネルギーの輸出を進め、国際的なプレゼンスを高めることを目指す。モロッコは北アフリカで唯一、欧州と送電線がつながっている国だ。スペインとの間に2本の送電線が敷かれ、現在はスペイン、ポルトガル、英国との間で新たな送電線の建設、計画が進む。

モロッコのエネルギー輸出の追い風となっているのが、欧州での再生可能エネルギー需要の拡大だ。EUは2030年までに消費電力の32%を再生可能エネルギーにするよう各国に義務付ける。それをクリアするため、スペイン、フランス、ドイツ、ポルトガルは2016年、モロッコと再生可能エネルギーの将来的な買い取りの約束を取り付けた。

モロッコは化石燃料が採れない国だ。2017年には50億キロワット時の電気をスペインから輸入していた。ところが2019年に形勢が逆転。7億7000万キロワット時の電気を輸出するようになった。モロッコ政府による再生可能エネルギーの輸出は今、着々と進んでいる。

WSRWは報告書の中でこう警笛を鳴らす。

「もしモロッコが欧州への電力供給国となれば、欧州はモロッコのわがままを止められない。そうなればモロッコは文字通りプラグを引くだけで、(欧州を黙らせ)西サハラを苦しめることができる」

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