
「西サハラの主権はモロッコにも米国にもない。唯一、サハラーウィ(西サハラ一帯に昔から住む人の総称)だけだ」。アルジェリアの難民キャンプで生まれ育ったサハラーウィ、ファトマ・ブラーヒーム・モフタールさんは3月6日、西サハラ友の会が主催するオンラインセミナーでこう訴えた。西サハラ問題の本質に迫るシリーズ「翻弄される西サハラ」。第1弾では、モロッコと国際社会にがんじがらめにされるサハラーウィの苦悩を紹介する。
西サハラはテキサスではない!
アフリカ北西部に、地図上で国境の一部が点線になっている地域がある。西サハラだ。サハラーウィの民族解放組織「ポリサリオ戦線」とモロッコ政府は、この地の主権をめぐり長年争ってきた。
ファトマさんがいま改めて「西サハラの主権はサハラーウィにある」と主張するのは、2020年12月のトランプ前米大統領の発言を受けてのこと。西サハラの主権をモロッコに認めると発表したのだ。
このタイミングでモロッコは、イスラエルとの国交を正常化した。アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダンなどアラブ諸国と国交回復を次々に進めるイスラエル。モロッコとの交渉で切り札となったのが、西サハラはモロッコに帰属するという米国の承認だった。
だが国際的にみて西サハラの主権はモロッコにはない。国際司法裁判所は1975年、モロッコが西サハラを過去に所有していたという証拠はなく、サハラーウィに民族自決権があると述べた。国連調査団も同じ年、サハラーウィが独立を望んでおり、彼らの唯一の代表組織はポリサリオ戦線であるとした。
国連加盟193カ国の4割以上に当たる84カ国も、ポリサリオ戦線が設立したサハラーウィ国家「サハラ・アラブ民主共和国」を国として認める。
ファトマさんは「西サハラの主権はもともとサハラーウィにある。トランプは、(米国の州である)テキサスやワシントンの主権をモロッコに認める(譲る)ことはできても、西サハラについては決してできない」と辛辣に批判する。
戦争をやめてほしいとは思わない
2020年、西サハラを揺るがす事件がもうひとつ起きた。西サハラ南西部のゲルゲラートで、モロッコ軍がサハラーウィの抗議デモを排除したのだ。
ゲルゲラートは西サハラとモーリタニアの境に位置し、ポリサリオ戦線とモロッコの緩衝地にある。モロッコ政府は2001年からゲルゲラートで幹線道路の建設を始め、2017年には検問所を設置した。これにより西サハラでとれた野菜や肉、リン鉱石などの資源がゲルゲラートを通ってモーリタニアに輸出されるようになった。
こうした事態に対抗するため、ゲルゲラートに住むサハラーウィは2020年10月20日、障害物を置いて道路を封鎖。非暴力の抗議デモを24日間にわたって打った。これに対してモロッコ政府は11月13日、軍をゲルゲラートに派遣。抗議するサハラーウィを追い払った。
ポリサリオ戦線はこれを停戦合意に反するとし、30年続いた停戦合意を破棄。モロッコ軍の数カ所の施設を攻撃した。以降、ポリサリオ戦線とモロッコ軍の戦闘が続く。
「戦争をやめてほしいとは思わない。私たちが難民となって45年。これ以上は耐えられない」。ファトマさんはポリサリオ戦線の抗戦をこう支持する。