【翻弄される西サハラ(4)】汚れた再生可能エネルギー、利益はモロッコ国王の懐に入っていた

サハラーウィが避難するアルジェリア難民キャンプでの抗議行動。バナーには「シーメンスは西サハラから出ていけ」と書かれている(写真提供:ウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ)サハラーウィが避難するアルジェリア難民キャンプでの抗議行動。バナーには「シーメンスは西サハラから出ていけ」と書かれている(写真提供:ウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ)

アフリカ最後の植民地、西サハラではモロッコ政府が風力や火力発電などの再生可能エネルギー事業を推し進める。その利益を得るのが、モロッコ王室が100%出資する企業ナレバと多国籍企業だ。西サハラの主権者であるサハラーウィ(古来から西サハラに住む人々)には恩恵がないどころか、発電所の建設の説明すらない。連載「翻弄される西サハラ」の最終回。(第1回第2回第3回

「資源を独占する貧者の国王」

ナレバは、モロッコの現国王であるモハメド6世や王室関係者が保有する投資会社アル・マダが100%出資する電力開発企業。西サハラのほぼすべての風力発電事業者の株式をもつ。

モロッコ王室はナレバを使って、西サハラでの電力事業の利益を得る。生産された電力はモロッコの政府機関・国家電気飲料水事務所(ONEE)か、モロッコ系企業に買い取られる。利益が西サハラの主権者であるサハラーウィに還元されることはない。

入札の公平性も疑わしい。風力発電所の開発事業のほとんどをナレバと外資系多国籍企業との合弁企業が落札しているからだ。ONEEは2012年、西サハラ北部のティスクラッドと中西部のボジュドゥールの2カ所を含む計5カ所の風力発電所を建てる事業を入札にかけた。世界有数のエネルギー企業が応札する中、勝ち取ったのはナレバ系企業だった。

モロッコ農業省が公募した西サハラ中西部、ダーフラでの風力発電の建設も2018年、ナレバ系企業が落札した。

モロッコ政府の資源の乱用をチェックするNGOウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ(WSRW)の国際コーディネーターで、ベルギー人のサラ・エイクマンスさんはこう語る。

「モロッコ国王は貧者に寄り添った王だと自称する。しかしやっていることは、権力を使った資源の独占。これはとても汚いやり方だ」

多国籍企業は盗人

モロッコ王室の西サハラ資源の搾取に加担するのが、電力の分野でグローバル展開する多国籍企業だ。

そのひとつがドイツ・スペインのシーメンス・ガメサ・リニューアブルエナジー(旧シーメンス・ウインド・パワー)。シーメンスは、ナレバが西サハラで建てるすべての風力発電所に風車を提供する。ティスクラッドとボジュドゥールの発電所の入札でも、ナレバと組んで開発の権利を手にした。

シーメンスは2017年、モロッコ北部のタンジェに風車工場を建設した。最初の顧客はもちろんナレバ。西サハラ中西部アフティサットの風力発電所に56機の風車を納入した。

フランスの電力・ガス会社エンジーもナレバと組んで再生可能エネルギー事業を進める。エンジーは現在、西サハラの首都近郊のフォーメルオエッド風力発電所とアフティサット風力発電所をナレバと共同で所有、運営する。ダーフラの風力発電所をナレバとともに落札したのもエンジーだ。

「シーメンスやエンジー、エネル・グリーン・エナジー(イタリア)といった多国籍企業は、モロッコが支配する西サハラで開発を進める。これは強盗から盗難品を買って売るのと変わらない。企業倫理に完全に反するやり方だ」と、エイクマンスさんは強く非難する。

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