前首相が圧勝したモンゴル大統領選、だけど若者の一番人気は敗れた「エリート最年長候補」だった

候補者(政党)の政策などが書かれた広報紙。左が当選したフレルスフ氏、右が2位のエンフバト氏のもの(高橋梢氏のモンゴル人の友人が提供)候補者(政党)の政策などが書かれた広報紙。左が当選したフレルスフ氏、右が2位のエンフバト氏のもの(高橋梢氏のモンゴル人の友人が提供)

モンゴルの大統領選が6月9日に実施され、1月まで首相を務めていた人民党のオフナー・フレルスフ党首(52)が当選した。得票率は67.69%と圧勝。だが若者の間で支持を集めたのは、第3勢力から出たダンガースレン・エンフバト元国家大会議(国会)議員(62)。モンゴルでIT会社を立ち上げたエリートで、3人の立候補者のなかで最年長。フレルスフ氏に3倍以上の大差をつけられ、2位で敗れた。

世界最大級の銅・金・石炭

勝利したフレルスフ氏の強みは知名度の高さ。首都ウランバートルはもちろん、地方でも50~70代を中心に支持が厚いという。2017年10月~2021年1月に首相を務めたからだ。

2位のエンフバト氏は、第3勢力の「正しい人・有権者同盟」(労働国民党・モンゴル社会民主党・倫理党)から出馬。得票率は20.31%だった。

最下位は、民主党のソドノムゾンドイ・エルデネ前党首(57)。派閥が乱立する党内で「嫌われ者」とされる。得票率は5.99%で、フレルスフ氏の10分の1以下。この数は、無記入で投票する白票(モンゴルでは有効)とほぼ同じだった。

フレルスフ氏が公約で掲げたのは、銅や金、石炭などの天然資源の開発で得られる利益を国民に還元することだ。目玉は、世界屈指の規模といわれるオヨー・トルゴイ銅金山とタワン・トルゴイ炭鉱。モンゴル政府は長年、オヨー・トルゴイの開発に投資する英豪の資源大手リオ・ティントに対して、開発の遅れや支出の増大に不満を抱いてきたという。

在モンゴル日本大使館で専門調査員(政治・経済担当)を2016年~19年に3年務めた、滋賀県立大学非常勤講師の高橋梢氏は、フレルスフ氏の勝因をこう語る。

「(人民党にとって)強力な対抗馬となるはずの民主党が直前に内部で分裂した。その結果、フレルスフ氏の優勢が強まった」(高橋氏)

高橋氏はまた、人民党を取り巻く動きにも触れる。2010年に人民党から分離した人民革命党が、選挙前の5月に解散、再合流。フレルスフ氏は、人民革命党の支持者の一部も取り込んだとの見方が濃厚だ。

人民党は2021年、創立100周年を迎える。高橋氏は「人民党にとって記念の年。どんな手を使ってでも、前回(2017年)のように負けるわけにはいかなかったはず」と推測する。

投票の決め手は英語力

高橋氏が最も注目した候補者はエンフバト氏だった。モンゴル国外に住む有権者の72.69%がエンフバト氏に票を入れたのだ。

実際にエンフバト氏に投票した、高橋氏の友人の娘(20代)は「英語が話せて教養があるから選んだ」と明かしたという。高橋氏は「モンゴルの若者は最近、政治家の判断材料として、外国語に精通し、国際舞台で対等に渡りあえる人物かどうかを見る傾向がある」と話す。

エンフバト氏は、モンゴルの大手IT企業ダータコムの創設者でもある。民主化してまもない1994年から国内の通信環境を整えてきたことに若者は注目した。

エンフバト氏を擁立した「正しい人・有権者同盟」に所属する党員や支持者は20~40代の若手が中心。日本や米国に留学したエリートも少なくない。

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