前首相が圧勝したモンゴル大統領選、だけど若者の一番人気は敗れた「エリート最年長候補」だった

候補者(政党)の政策などが書かれた広報紙。左が当選したフレルスフ氏、右が2位のエンフバト氏のもの(高橋梢氏のモンゴル人の友人が提供)候補者(政党)の政策などが書かれた広報紙。左が当選したフレルスフ氏、右が2位のエンフバト氏のもの(高橋梢氏のモンゴル人の友人が提供)

コロナ感染で討論会は中止

だがエンフバト氏に思わぬ逆風が襲う。選挙期間中の6月5日、新型コロナウイルスに感染したのだ。

エンフバト氏の新型コロナ感染を受けて、立候補者の討論会は中止となった。モンゴル国営放送(MNB)主催の討論会は、投票2日前の6月7日に対面で実施する予定だった。オンラインに切り替えようにも、エンフバト氏が隔離された病院に機材を準備する人を外から入れる許可は下りなかったという。

討論会の代わりに、音声を使う会話型のSNS「クラブハウス」を若者が急きょ配信した。ところがエンフバト氏とエルデネ氏は参加したものの、最有力候補のフレルスフ氏は不参加。結局、有権者に向けて立候補者3人がそろって意見を交わす機会はなかった。

「クラブハウスは、3時間のうち大半が配信や進行の調整と参加者同士の揉めあいでカオス状態。多くのモンゴル人は、討論会を見て誰に投票するかを決めようとしていた。オンラインでもできたはず。とくに若者は落胆したと思う」(高橋氏)

また高橋氏によると、討論会の主催者がMNBに決まった時点で、国民は選挙を色眼鏡で見た可能性があるという。「MNBは国内唯一の公共放送であるが、現政権の人民党寄りでもある」と説明する。

国民にとって選挙の盛り上がりに欠けたためか、投票率は59.35%と過去最低を記録した。今回の大統領選は、民主化後に実施されてから8回目だった。

新空港がやっとオープン

フレルスフ氏の大統領就任式は6月25日となる予定だ。その直後の7月4日には新ウランバートル国際空港が開港する。

高橋氏は、新空港はフレルスフ氏にとって思い入れが強いのではないかと話す。フレルスフ氏が首相の時から何度も建設現場を訪れたうえに、新型コロナの影響で1年近く延期したからだ。

新ウランバートル国際空港の建設は2013年に始まった。日本政府の円借款(1期・2期の総額656億5700万円)によるものだ。

モンゴルの新大統領の任期は6年後の2027年まで。任期は、2019年の憲法改正で、これまでの4年(再選1回が可能で最大8年)から6年(再選なし)に変わった。

前回(2017年)実施された大統領選の投票会場の入り口。投票時間は朝7時から夜10時までと長い。モンゴルの民族衣装「デール」を着て投票に行く人も多い(写真は高橋梢氏が撮影)

前回(2017年)実施された大統領選の投票会場の入り口。投票時間は朝7時から夜10時までと長い。モンゴルの民族衣装「デール」を着て投票に行く人も多い(写真は高橋梢氏が撮影)

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