タイで続く反政府・反王政を掲げるデモ、最大の契機は「若者が熱烈に支持した政党の解散」だった

0124タイPバンコクの中心部にあるラチャプラソン交差点で2020年10月15日に起きたデモのようす(BBC Thaiより引用)

「(タイの学生を中心とする)デモが起きた最大のきっかけは、タイの若者が支持し反軍政を掲げる新未来党が2020年2月に解散したこと。若者は解散の理由を不当に思っている」。こう話すのは、タイ人で、早稲田大学社会科学部で講師を務めるタンシンマンコン・パッタジット氏だ。軍出身のプラユット首相の退陣、憲法改正、不敬罪の撤廃、王政改革を求めるデモは2020年9月以降、首都バンコクで現在も続いている。

憲法裁判所は2020年2月、新未来党に対して、タナトーン党首が同党へ融資したことが政党法違反に当たるとして解党命令を出した。タナトーン党首ら党の幹部16人の政治活動を10年禁じる処分も科した。

新未来党の解散はプラユット軍事政権による抵抗勢力つぶしだとの見方が大勢だ。タンシンマンコン氏は「新未来党は2019年の下院総選挙に初めて参加し、都市部の若者を中心に支持を集めた。得票数は、タイ貢献党(反軍政)、国民国家の力党(親軍政)に次ぐ3番目に多かった。このため、新未来党がさらに支持者を増やすことを恐れたプラユット政権の意向があったのではないか」と分析する。

また、250人の上院議員は、2014年に起きたクーデターの実行者である国家平和秩序維持評議会(軍が実質的に支配する)の指名で決まることも、デモ参加者の不満のひとつだ。有権者が選べるのは下院議員の500人のみ。

「上院が軍政側の意向で決まる仕組みは法の下の不平等だ、とデモ参加者は考えている」とタンシンマンコン氏は話す。だが憲法を改正するには上院議員の3分の1以上の賛成が必要だ。首相指名権は上院・下院どちらにもあり、上院の影響力は大きい。

さらに、経済格差の拡大に対する市民の不満もある。世界有数の金融機関であるクレディ・スイスが2018年に発表した推計によると、タイでは上位1%の富裕層が同国の財産の67%をもっているという。タンシンマンコン氏は「王室、軍、有産階級といった力をもつ人たちの利益が重視されている。それ以外の一般市民は国民として扱われていないように感じる」と語る。

お金がとりわけ集中しているのが王室だ。2020年2月に解散した新未来党を継ぐ前進党によると、2020年の王室の予算は前年比で1.44倍の98億1000万バーツ(約339億4000万円)にのぼった。一方で、同じ年のタイの実質国内総生産(GDP)は前年比で6.1%減だ。

タイ政府によるコロナ対策が不十分だったことも市民の不満を増大させ、デモの契機になった。タイの1日の新規感染者数は2021年8月には2万人を超え、10月上旬までは連日1万人以上。死者数は2022年1月7日までの累計で2万1799人だった。

新型コロナに感染して命を落とした人の数も多いが、コロナ禍で生活が苦しくなり自殺した人も多いとタンシンマンコン氏は言う。ロックダウンで失業や休業を余儀なくされた人に対して政府が配った給付金はわずか。支援金は何度か給付されたものの、1回でもらえる額は2500バーツ(約8650円)や5000バーツ(約1万7300円)。「少ない給付金では生活を維持していくことは難しい」(タンシンマンコン氏)

大学生や高校生が始めたデモだったが、コロナ禍で生活が困窮したセックスワーカーやLGBTQ(性的マイノリティー)の人たちも参加するようになった。「自分の苦しい状況を少しでも知ってもらうには声をあげるしかないと考え、参加している人も多い」とタンシンマンコン氏は話す。