コロンビアで左派政権が誕生した理由、黒人女性の副大統領候補が人気だったから?

新副大統領となったフランシア・マルケス氏のポスター。選挙を戦った際にモットーとして掲げたのが「VAMOS A VIVIR SABROSO」(美味しい<快適な>生活をしよう)新副大統領となったフランシア・マルケス氏のポスター。選挙を戦った際にモットーとして掲げたのが「VAMOS A VIVIR SABROSO」(美味しい<快適な>生活をしよう)

貧困層はコロンビア人ではない?

コロンビアの貧困層が抱える政治に対する不信感は根強い。磯田氏は「コロンビア政府は自分たち(貧困層)のことをコロンビア人だと思っていない、と感じている。だから政治に期待しない人は少なくない」と言う。

その要因のひとつは、一部の左派ゲリラとの和平交渉が右派のドゥケ前政権のもとでなかなか進まなかったことだ。

コロンビア最大の左派ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」が2016年に武装解除した後も、残党兵が活動を続けている現実。FARCを恐れていたほかの左派ゲリラも勢いづいてきたという。

FARCの武装解除をもってコロンビア内戦が終わるまで、左派ゲリラが拠点にしていたのは、貧困層が暮らす農村部や山間部。マルケス氏が生まれ育ったカウカ県もそのひとつだ。

「農村の人たちは内戦の間、左派ゲリラ、それに対抗する準軍事組織(右派ゲリラ)のパラミリタレス、国軍などさまざまな組織から攻撃を受けていた。『とにかく和平交渉をやってもらわなければ困る』と左派政権を支持したのでは」と磯田氏は分析する。

貧困層が政治に不信感をもつもうひとつの要因は、都市と農村の貧富の格差が埋まらないことだ。世界銀行の2020年のデータによると、コロンビアのジニ係数(所得格差を0~1で表した値。0が完全に平等)は0.54だ。ジニ係数の警戒ラインは0.4。これを超えると社会騒乱が起きるとされる。

「平等省」の設立めざす

左派政権が誕生する決定打となったのは、2021年4月にドゥケ前大統領が増税法案を発表したこと。付加価値税、個人所得税、法人税を引き上げるとした。中間層に向けては、水道光熱費やパソコン、携帯電話などが新たに19%の課税対象になった。

政府のこのやり方に対して、コロナ禍で苦しい生活をしていた市民の不満が爆発。死者40人以上を出す大規模なデモが起きた。

「増税法案はいわば、スレスレまで水が入ったコップに落とされた最後の1滴。『政治家や富裕層に食い物にされている』という今までの恨みつらみが一気にあふれ出た。今まで政治経済を牛耳ってきた人たちはみんなだめだ、という空気になった」(磯田氏)

新政権は今、新たに「平等省」を作ろうと動いている。目的は、女性や若者、アフリカ系、先住民などの社会的・経済的な立場を高めること。副大統領のマルケス氏が大臣を兼ねる予定だ。

 

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