フィリピンの人権活動家・一般市民は「共産主義者」のレッテルを貼られ殺される、FoEなどが警鐘

ミンダナオ島の北スリガオ州タガニートで、ニッケル鉱山の拡大に反対していたママヌワ族のリーダー、ベロニコ・デラメンテさん。2017年に何者かに殺されたミンダナオ島の北スリガオ州タガニートで、ニッケル鉱山の拡大に反対していたママヌワ族のリーダー、ベロニコ・デラメンテさん。2017年に何者かに殺された(写真提供:FoE Japan)

赤タグ付けするぞ

開発現場でも超法規的殺害は問題だ。

ミンダナオ島の北スリガオ州タガニートには、中国企業が開発を進めるニッケル鉱山がある。この鉱山の拡張に反対していた先住民のリーダー、ベロニコ・デラメンテさんは2017年、2人組の男に殺された。ダバオデオロ州では、バナナ事業者「スミフル」に対して労働条件の改善を求めた労働組合のメンバー、ダニー・ボイ・バウティスタさんが2018年に射殺された。スミフルには当時、住友商事が出資していた。

NTF-ELCACも脅迫に利用されている。多くの鉱山開発が進められようとしているルソン島北部のコンディリェラ地方では、先住民は警察から「反対運動をやめないと赤タグ付けするぞ」と脅されているという。

それ以外にも「先住民のNGOは共産主義者である」と書かれたちらしがヘリコプターからばらまかれたり、「先住民のNGOは新人民軍(NPA=フィリピン共産党の軍事組織)に所属していて、若者をリクルートしている」とフェイスブックに書き込まれたりした。

FoE Japanのスタッフ、波多江秀枝さんはこう危惧する。

「現地の人は、次は自分の命が狙われるかもしれないと感じて委縮している。反対運動もやりづらくなってきた。私たちも(開発に対して反対運動が起きている)現場に入り難い」

日本企業も人権侵害に加担か

脅迫のうえに進められるフィリピンの開発。それに日本の官民が加担する可能性もある。

大阪ガスと国際協力銀行(JBIC)は、ルソン島南部のバタンガス州イリハンで液化天然ガスの輸入ターミナルを建設するAGPインターナショナル・ホールディングスに出資している。

建設現場は自然豊かな海峡にある。工事が進めば、生態系が壊されかねない。地元の人は漁獲量が減らないかと不安を感じているという。

波多江さんは2022年9月、イリハンを訪問。村長らと話をした。だがことあるごとに「左派の人間ではないか」と探られるような傾向があった、と話す。

「NTF-ELCACが村のレベルまで影響しているのか。とても動きづらいと感じた。開発の被害を直接監視できないことにもなりかねない。そういったところに日本(企業、政府)が資金を出してもいいのか」と問題提起する。

FoE Japanをはじめとする18の市民団体は2021年、フィリピンの人権侵害に関する要請書を日本政府に提出した。このなかで、「超法規的な殺害を直ちにやめるようフィリピン政府に要請すること」「公的支援を一時停止し、これまでの支援が人権侵害に加担していないか検証すること」などを求めた。

藤本さんは日本政府に対し「日本は、フィリピンにとって最大の支援国。日本政府にはフィリピンの人権侵害の状況を把握し、”友情ある説得”をしてほしい」と訴える。

新大統領で変わるのか

フィリピンでは2022年6月、独裁者と呼ばれたフェルディナンド・マルコス元大統領の息子、ボンボン・マルコス氏が新大統領に就任した。

マルコス新大統領は、国連人権理事会などにフィリピン司法相を参加させるなど、国際社会に歩み寄る姿勢を見せている。だが、国際刑事裁判所(ICC)の捜査を受け入れなかったり、麻薬対策も継続するなど、ドゥテルテ政権の方針を踏襲する構えだ。

「過去の人権侵害をなかったかのようにして教訓にしないのであれば、また同じ過ちを繰り返すのではないか」。藤本さんはこう懸念する。

ルソン島南部のバタンガス州イリハンにある液化天然ガスの輸入ターミナルの建設現場。大阪ガスと国際協力銀行(JBIC)が出資する

ルソン島南部のバタンガス州イリハンにある液化天然ガスの輸入ターミナルの建設現場。大阪ガスと国際協力銀行(JBIC)が出資する(写真提供:FoE Japan)

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