
共通の趣味を持つ友人もできる
ゴメスさんがサンタプロジェクトに初めて参加したのは2年前の2023年だ。自称“日本オタク”のゴメスさんは日本のアニメが大好き。春のひなたで日本語や日本文化を学び始めた。
サンタプロジェクトの練習シーンをある日見ていたら、「役に欠員が出ているから」と誘われた。「恥ずかしかったけれど、『赤鬼の役が足りない。クリスマスに子どもたちが公演を待っているから、一緒にやってくれない?』とスタッフにお願いされ、入ることにした。
練習は想像以上に大変。舞台に立つのも不安だった。ところが迎えた本番、「ステージの照明が眩しくて、あまり緊張せずに役を終えることができた。終演後に赤鬼の姿でクリスマスプレゼントを子どもたちに配ったとき、子どもたちの笑顔を見て嬉しかった。自分でもできると思えた」と振り返る。
自信をつけたゴメスさんは今年自らの意志でオーディションに参加した。
「剣心の役がやれたらいいなとは思っていた。だけど結果は主役の龍馬。とても驚いた」(ゴメスさん)
毎週土曜日の午後と日曜日の午前の練習は必須。ゴメスさんは「共通の趣味を持つ新しい友人もできるから、僕にとっては三足のわらじを半年間履き続けるのも苦労ではない。むしろ楽しい」。
主役を務めるからにはできる限りの努力をしたい、とゴメスさん。刀のシーンを上手に演じたいからもっと練習したい、龍馬のことをもっと学びたい、龍馬になりきるため衣装合わせの前までに髪を伸ばしたい――と3つの目標を掲げる。
恥ずかしがり屋を卒業
ゴメスさんに日本語を教え、メデジン日本クラブ代表のモラレスさんは「フリアン(ゴメス)は努力する生徒」と“役者”としての成長にも期待を込める。
「愛を持って日本語を教えるのが信条」と話すモラレスさんは言う。スペイン語が公用語であるコロンビアでは日本語を使う環境は自ら探す必要があり、日本への愛がないと日本語は上達しないと言う。
「フリアンは、春のひなたが開催するさまざまな日本文化のワークショップやサンタプロジェクトに参加している。また、春のひなた以外のアニメのイベントなどにも行き、自分が興味のある分野で日本語を使う努力をしている。日本語クラスにただ真面目に出席するだけでは日本語は上達しない」
モラレスさんは、教え子のゴメスさんの姿を、かつての自分と重ね合わせる。いまは熱烈教師として、日本語教育を熱く語るモラレスさんだが、かつては恥ずかしがり屋の性格だったという。
そんなモラレスさんを変えたのは、日本語であり、サンタプロジェクトへの参加だ。モラレスさんは当時高校生だった。
「3歳年上の姉が日本語を学んでいて、友だちがたくさんいて楽しそうだった。私も日本語を始めたら友だちが増えるかもと思った」。日本への3年間の留学も経験し、現在は春のひなたで日本語教師に。同時にメデジン日本クラブでもインスタグラムへの投稿などの広報やサポート業務を担当する。
「サンタプロジェクトを通じて私も恥ずかしがり屋を卒業した。『日本』を共通の趣味とする新しい仲間との出会いが広がった。今のパートナーと出会えたのもサンタのプレゼントかも。夫婦役で共演したこともあるのよ」と楽しそうだ。
「龍馬、ー侍なき国を夢見た侍ー」でゴメスさんはどんな龍馬を演じてくれるのか。ゴメスさんの頭の中ではいま、「努力」という言葉がこだましている。