
ストリートチルドレンに教育機会を提供し、自立へと導くセネガル・ダカールのNGOビラージ・ピロット。教育の一環として取り入れるのがラグビーだ。ビラージ・ピロットのラグビーチーム「ドラゴン」でコーチを務めるシェークは「ラグビーをすることで、ルールを守ること、団結すること、相手を尊敬することを学ぶ。子どもたちにとって最高の教材だ」と話す。(第1回、第2回)
エネルギー発散はタックル
昼食も終わった午後、子どもたちが校庭で砂ぼこりを立てながら楕円のボールを追いかけ始めた。ラグビーだ。セネガルで定番のスポーツといえばサッカー。だがビラージ・ピロットが運営するストリートチルドレンの受け入れセンターでは、ラグビーが人気ナンバーワンだ。
ウォームアップもそこそこに試合が始まった。アタック側はボールを持った選手からどんどん突っ込んでいく。ディフェンス側も激しいタックルで応戦する。フルコンタクトの本格的なラグビーだ。シェークは笑いながら言う。
「この子たちはみんなエネルギーがあり余っているからね。こうやってぶつかってエネルギーを発散するんだ」
明らかにハイタックル(肩より上へのタックル。公式戦ではペナルティとなる)と思われるプレーでも試合は止まらない。子どもたちは倒れてもすぐに立ち上がり、体をぶつけ合った。
「ここ(受け入れセンター)に来る子どもたちのほとんどは元ストリートチルドレン。やってきた当初は心を閉ざし、ほかの子どもたちと仲良くできない。暴力を振るう子もいる。だがラグビーをすることで、ルールを守ること、団結すること、相手を尊敬することを学ぶ。ラグビーは子どもたちにとって最高の教材なんだ」(シェーク)
ラグビーでストリートチルドレンを更生する。さながらセネガル版スクールウォーズだ。
プロ選手も輩出
ラグビーは、「プロ選手になる」という夢にも直結する。
ドラゴンには10歳以下、12歳以下、15歳以下、18歳以下、19歳以上のシニアの5つのチームがある。すべてのカテゴリーでドラゴンは強豪だ。多くのセネガル代表選手をこれまで輩出してきた。2026年にダカールで開催されるユースオリンピックの代表にもドラゴンから5人の選手が選ばれた。ユース代表をステップアップにラグビー選手としてセネガル国内の企業に就職するケースもある。
「フランスでプロ選手になった卒業生もいる。そんなロールモデルがいるから、子どもたちのモチベーションは高い」
こう話すシェークも元セネガル代表だ。今から20年以上前に、ビラージ・ピロットの理事長に「ラグビーで子どもたちを更生してほしい」と頼まれた。
「セネガルの子どもたちにはちゃんとした仕事に就き、家族を持ち、良い大人になってもらいたいとずっと思っていた。ビラージ・ピロットに誘われた時、これだと感じた」(シェーク)

ビラージ・ピロットのラグビーチーム「ドラゴン」のコーチを務めるシェーク。ラグビーの元セネガル代表選手だった

スクラムを組む子どもたち。タックル、ラック、スクラムとコンタクトの練習にも全力だ