ganasサポーターズクラブ エッセーの会
  • 2020/08/23

男だって化粧がしたい! メンズメイク講座からジェンダーを考える

化粧4
*この記事は「ganasサポーターズクラブ」の「エッセーの会」に参加されているパートナー/サポーターの方の作品です

私は大学二年生の時に、札幌の美容室でメンズメイクの講座を受けた。週一回で全四回の講座であった。。今回はそこでの経験と感じたことを「ジェンダー」という観点から見てみよう。特に男性の方は、「自分はメイクがしたいと思うか?」「したくないならそれはなぜか」と考えながら読むと面白いかもしれない。

●男だってきれいになりたい!

大学二年生の夏休み、私は単調な毎日に嫌気がさしていた。変化を求めて海外に出た一年生の頃は、もう昔。そのころに比べて、札幌での暮らしは刺激も変化も少なかった。変化が欲しい、それも劇的で短期的な何かが。

そんなときふと思った。見た目を変えよう!それもメイクをしてきれいになれば、劇的にそれもすぐに変化するだろう。すぐに「メンズメイク 札幌」で検索すると、一件だけヒットした。こうして私は「きれいになりたい」という思いをひっさげて、ある美容室に向かった。

●居心地の悪いはじまり

講座を行う美容室は、札幌のすすきのに程近いビルの一角にあった。ビルは美容室やレストランが軒を連ね、オシャレな雰囲気を醸し出していた。早くも居心地の悪さを感じる。そしてなぜかエレベーターでしか行けない6階に、その美容室はあった。

入ってみると、昼間だからか講座には関係ないお客さんが、他に一人、二人いる程度である。

店内は全体的に女の子っぽい雰囲気であった。それもフェミニンというよりはガーリーな感じだ。座る椅子にはピンクのフリルがあしらわれており、なんかふわふわである。気まずい。男子大学生が一人で入るところではない。

講座は一対一であった。最初に担当の方が紹介される。茶色がかった髪を、まっすぐに長く伸ばした綺麗な方だ。化粧が少し濃いめに決まっている。美容室よりアパレル系で働いてそうだと勝手に思った。

自己紹介の後、受講の理由を聞かれた。

「就職のためですか?最近増えているみたいですね。」

全然違う。私はきれいになりに来た。何ならかわいくなりに来た。

しかしそれを言うと引かれそうなので、あいまいに返事をしておいた。釈然としない思いの中、講座が始まった。

●ファンデーションを学ぶ

四回の講座のうち、前半に学んだのはファンデーションを塗ること、そして落とすことだ。

顔の四方につけた液体をスポンジで伸ばす。茶色の絵の具を顔に塗りたくる感じだ。実際につけてみるとその違いが如実にわかる。

「肌がきれいに見えますよね。」

確かにそのとおりである。血色の悪い白色が、元気そうな肌色になった。

そしてこれを落としてみる。ファンデーション落としを使って、さらに洗顔。最後に化粧水で保湿する。これが化粧水か!と謎の感動を覚えた。

●ビューラーとアイラインに戸惑う

後半はビューラーとアイラインを学んだ。これには非常に苦戦した。

まずはビューラー。改造したハサミのようなやつで眉毛を挟んで上向きにする。これが中々曲がらない。そして曲がったとしても違いがわからない。

担当の方は、

「目がはっきりして見えるんですよ。」

とビューラーの効果を話してくれる。

そうは見えませんけどねえという言葉を、私はぐっと飲みこんだ。

アイラインも難しい。書道の小筆みたいなやつで、まつ毛の根本を黒く塗る。その時に筆先が眼球にふれると激痛が走る。そして何とか成し遂げた後に、ふと鏡を見ると愕然とする。全然変わっていない!

●講座のおわりと周りの反応

その他チークやコンシーラー等を学んで講座は終わった。最後に学んだことを全てやった完成形を作った。

「いいですね!お店のインスタにのせてもいいですか?」

インスタ用に写真まで取った。担当の方が褒めてくれるのはうれしいが、私は不満だった。正直そんなに変わっていない。メイクってきれいになるためにやるのではないのか。全然きれいになっていないじゃないか。その割にコースだけで2万円も取るじゃないか。

複雑な思いを抱えたまま、講座を終える。そしてある時友達に、メイクを習ってきたと話した。その時の友達の第一声が「きもちわる!」であった。

私の中で、心外だ!という思いと同時に、確かにそう言われても仕方ないという思いもわいた。私はなぜ「仕方がない」と思ったのだろうか。男はメイクできれいになれないのだろうか。

●ジェンダー概念の基本

皆さんは「ジェンダー」という概念を知っているだろうか。簡単に確認してみよう。

性別には二種類の視点がある。セックスとジェンダーだ。セックスは生物学的な性差といわれ、ついているついてないの区別がこれにあたる。対してジェンダーは社会的・文化的に構築された性差といわれる。「男らしい」「女らしい」がこの区別にあたる。

ジェンダー論は、このジェンダーが作られたものであり、本来はもっと多様であるから見直そうというものだ。例えば今回の美容室の雰囲気。皆さんは女の子っぽいといわれて、想像がついたのではないだろうか。また担当の方に受講理由を聞かれたとき、なぜ私は「かわいくなりに来たのですか?」といわれなかったのか。担当の方は無意識のうちに、男がかわいくなりたいわけがないと思っていたのではないか。これらを考えるのがジェンダー論である。

●ハイヒールは女性のものか

ジェンダーが作られたものだという例に、ハイヒールの歴史を挙げてみよう。

現代、ハイヒールは女性が履くものとされている。しかし昔はそうではなかった。

近代以前、貴族は男女関係なく華美に装っていた。フランス国王ルイ十四世は自らの脚線美を自慢するため、かかとを赤く染めたヒールの靴を履いていたのだ。

しかしブルジョワジー(市民階級)の台頭により、貴族を思わせる派手な文化は徹底的に破壊された。男性はモノトーンで飾り気のない服装になり、現代のメンズスーツに繋がっていく。こうしてハイヒールなどの着飾る文化から男性が排除されていった。

化粧も同じ流れを汲んでいるとしたらどうだろう。男がメイクをすることに対する、「気持ち悪さ」が揺らいでいくのではないだろうか。

●自分の「性」が揺らぐ

実はジェンダーだけではなく、セックスも多様である。そこで取り入れられたのは「SOGI(Sexual Orientationan&Gender Identity)」日本語で性的指向と性自認である。今度はこれを見ていこう。

私は大学三年生の時に、LGBTQのトークイベントに参加した。そこではレズビアンの方が二人、登壇していた。そこで紹介されたのが「性のあり方診断シート」である。

下の写真を見てほしい。

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これは誰にでも当てはまる。実際に私もやってみた。

化粧3

これを見ると確かに「どちらかというと男」だが、「100%男」ではない。

これはSOGIをわかりやすく視覚化したものだ。やってみるとわかるが、セックスも男か女かという単純な二項対立では考えられない。そして他人事でもない。SOGIは誰にでも適用されるものなのだ。

●何と戦っているのか

私はジェンダーの概念を知ってから、見える世界が変わった。

例えば、アンケート用紙の性別を入れる欄。基本的にどのアンケートも二つしか選択できない。しかしたまに「その他」を選択できるものがある。それを見つけると好印象を抱く。一度、性別の欄が記述式のアンケートに出会った。その時は感動すら覚えた。

この小さな例からわかることは、私は「ない」ということに気づいたということだ。これは非常に大きな変化だ。「ある」ことに気づくよりも、何倍も難しい。そして「ない」ことに気づくことは、自分の見える世界が変わることに他ならない。

しかしジェンダーはともすると、やっかみや攻撃とみなされることがある。ジェンダー論の目指すところはどこなのか。

同じトークイベントで、登壇者の一人が同性婚について話していた時、心に迫るコメントをしていた。

「(同性婚が)出来るか出来ないかなら、出来た方がいいよね。そう思える人を少しでも増やしたい。」

皆さんもメンズメイクが「出来た方がいい」と思えただろうか。

 

(サポーター/匿名)

*この記事はganasサポーターズクラブのエッセーの会に参加するパートナー/ サポーターの方の作品です。
*ganasサポーターズクラブのエッセーの会では、エッセーの書き方を学んだりフィードバックしあったり、テーマについてディスカッションしたりして、楽しくライティングをスキルアップしています。
*文責は筆者にあり、ganasの主義・主張ではありません。