大麻は本当に危険なのか? 6月に解禁されたタイで今一度考える

ミーシャチェンマイの郊外で「リジェネレーティブ農業」をするミーシャ・コニャフスキーさん(34)。「大麻を薬として使うのか、ドラッグとして使うのか。すべては自身の選択だ」と語る

売り上げの7割は大麻商品

大麻を解禁する国は近年、増えている。カナダや南アフリカでは2018年、大麻を合法にした。米国でも合法な州が増えている。お隣の韓国でも2018年に大麻の医療利用が可能となった。

タイも医療大麻を2018年に合法化。「ドクターガンジャ」と呼ばれるマスコットキャラクターを前面に押し出し、大麻オイルなどの利用を進めてきた。その流れに乗ってタイ食品医薬品局は2022年6月、大麻を麻薬5類から除外。これにより大麻の所持、使用、栽培、販売が可能になったのだ。

その劇的な変化の裏に透けて見えるのが、大麻を一大産業にしようとするタイ政府の思惑だ。大麻のマーケットは2024年までに4億2400万米ドル(約580億円)になるといわれている。アヌティン・チャーンビラクル保健相は5月、100万本の大麻をタイ全土に無料配布することを発表。政府総出で大麻ビジネスを後押ししている。

タイでは新型コロナウイルスにより経済が停滞したことに加え、長引く軍事政権への批判が高まっている。この状況を変えるためのウルトラCが大麻の合法化なのだ。

だが果たして大麻は本当に大きなビジネスチャンスなのか。この疑問に答えてもらうため、私はチェンマイで大麻商品を販売する「ディージャイカフェ」を訪ねた。

ディージャイカフェの前ののぼり。大きくCannabis(大麻)と書かれている

ディージャイカフェの前ののぼり。大きくCannabis(大麻)と書かれている

店の前には大きく「カンナビス(大麻)」と書かれたのぼりが掲げられ、大麻特有の鼻を刺すにおいがする。そこで出迎えてくれたのがカフェの共同オーナーのネイル(本名:チャノン・ネトウィチャイ、27)だった。

ネイルは2022年5月にディージャイカフェを開業。6月の大麻解禁にあわせて、大麻商品の販売をはじめた。十数種類もの乾燥大麻のほか、大麻入りクッキー、ブラウニー、チョコレートを販売する。カウンターで大麻入りのお茶やハニーレモンティーも注文できる。この商品ラインナップでどれほどの売り上げがあるのか。

「大麻製品を売り始めた6月の売り上げは約70万バーツ(約260万円)。そのうちの7割が大麻関連の商品さ」(ネイル)

カフェのオフィスでインタビューに応じるネイルさん

カフェのオフィスでインタビューに応じるネイルさん

6月の売り上げは5月の約3.5倍。大麻の販売が店に大きく貢献していた。

ネイルの話によると、客のほとんどが観光客だという。彼らは大麻商品を購入して、それをSNSで発信してくれる。それを見たほかの観光客が店に来るのだという。大麻ビジネスが観光産業と結びつき、大きな売り上げとなっていた。

カフェのカウンターにはピルケースに並べられたさまざまな種類の乾燥大麻が売られていた。「ズープルパンチ」「ブルーチーズ」「レモンヘイズ」といったファンシーな名前が並ぶ。値段は1グラム当たり150バーツ(約560円)から高いもので700バーツ(約2600円)ほど。ハイになったり、リラックスしたりなど、品種によって効果は違うらしい。

カウンターでは客が乾燥大麻のにおいをかぎ、スタッフがその説明をしている。

「大麻の生産や販売は合法になったが、海外からタイに持ち込むのは違法なんだ。タイで流通しているものはすべてタイ産さ」とネイルは教えてくれた。タイ産の大麻の消費を上げたい政府の意図がうかがえる。

さまざまなフレーバーの大麻が並ぶカフェのカウンター

さまざまなフレーバーの大麻が並ぶカフェのカウンター

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