【ganas×SDGs市民社会ネットワーク①】「ジェンダー平等が日本の超高齢化社会を解決する」、ジョイセフの石井澄江代表理事に聞く

1202名竹さん、写真①IMG_0037石井澄江・ジョイセフ代表理事。大手商社勤務を経て現職。2016年の伊勢志摩サミットで政策提言した「G7サミット市民社会プラットフォーム」の共同代表も務める。

世界は、国連が2015年に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」に向けて動き出した。「ganas×SDGs市民社会ネットワーク」と題するこの新連載では、開発業界のキーパーソンへのインタビューを通じ、SDGsが掲げる17の目標の意義や取り組みを紹介していく。第一弾として、途上国の妊産婦を支援する国際協力NGOジョイセフの石井澄江代表理事に、SDGsのゴール5「ジェンダー平等を達成し、すべての女性と女児の能力強化を行う」(具体的なターゲットはこちら)についてインタビューした。石井代表理事は女性を経済発展への道具とみる日本の政策を批判し、またジェンダー平等が高齢化社会で成長のドライバーになると語った。

■政策だけでは不十分

――世界経済フォーラムのジェンダーギャップ(男女格差)指数では、ルワンダなどの途上国が上位に位置するのに、日本は2016年も111位と毎年100位圏外です。これはなぜでしょうか。

「日本では、政治家や企業の重役の女性比率がとても低いからです。途上国には、クオーター制といって国会議員の何%を女性にしなければいけないという法律がある国も少なくありません。選挙結果が男性優位になれば、手を加えて女性を入れます」

――法律で決めないとジェンダーギャップが埋まらないのは、途上国だからでしょうか。

「途上国に限らず、ノルウェーなどの先進国もクオーター制を導入しています。クオーター制の推進者には『法律など強制的にジェンダー平等を実現させるべき。伝統的な社会の中で何年やっても男女のギャップは埋まらない』と主張する人もいます」

――日本でもクオーター制をはじめとするアファーマティブアクション(不公平な待遇を受けてきた少数派に、教育や雇用などの機会を優先的に与えること)を起こす必要はあるのでしょうか。

「私はそうは思いません。アファーマティブアクションがあるということは、法律の力がなければジェンダー平等が進まない国ということになります。法律や政策といったトップダウンでジェンダー平等を進めても実社会が変わるとは限りません。市民の声を行政に上げるボトムアップの活動も必要です」

■女性を「経済だけ」で見るな

――住民の声を政策に上げていくところで、ジョイセフの途上国での活動経験が生きるのでしょうか。

「ジョイセフでは、途上国でどんな活動をするにも、コミュニティ全体を考えることを前提にしています。一緒に仕事をしていてもあくまで私たちは外国人。ですので現地の人が自分たちでどうやって自立した活動を継続できるかを最終目標にしています。

女性の健康を向上させる活動をする場合、お金のある海外NGOの活動に初めはみんな賛成します。ですが私たちが撤退した後、その活動が終わってしまうケースもあります。女性が虐げられている社会では、本当の意味で女性をサポートすればうまくいくということを、伝統的リーダー、行政もリーダーを含むコミュニティ全員に認識されなければ続かないのです」

――安倍政権は2030年までに経営層に女性を積極的に登用させようとしています。どう評価しますか。

「安倍政権が初めて積極的に女性の登用を打ち出したのは評価します。ですが、一番のフラストレーションは、女性を経済的な側面でしか見ていないことです。国民のウェルビーング(幸せ)を追求するのであれば、ジェンダー平等を進めることは大事ですが、経済成長のために女性の問題に取り組むという進め方ではいけません。『働くこと』が単に経済的な目的のみでなく、自己実現の手段になってほしいと私は願っています。

今の政策はまた、大企業や官公庁などの女性指導者に焦点が当てられているように見受けられます。一般の女性から共感を得られないことも課題です」

2016年10月に石井氏が訪れたザンビア・コッパーベルト州の妊婦待機ハウス(出産を控えた妊産婦が出産日まで滞在できる施設)の開設式。ハウス運営には女性だけでなく、男性の協力も必要だ

2016年10月に石井氏(写真中央)が訪れたザンビア・コッパーベルト州の妊婦待機ハウス(出産を控えた妊産婦が出産日まで滞在できる施設)の開設式。ハウス運営には女性だけでなく、男性の協力も必要だ

■男性の家事時間は女性の2割

――日本の女性の特徴は。

「日本の女性には特殊性があります。日本の女性は全般的に高い識字率をもち、最低でも12年の教育を受けています。これは世界でもまれな環境です。ですが、日本女性の労働力率カーブは、大学・大学院を卒業する25歳ごろと、50歳ごろにピークを描くM字型です。一度は社会に出て働いても、結婚・育児・家事で仕事を辞めないといけません。かつてはM字型だった他の国は改善しているのに、日本はほとんど変わりません」

――M字型が改善しないのはなぜでしょうか。

「女性を取り巻く環境がきちんと整っていないためです。意識はずいぶん変わりましたが、変化のスピードが遅い。

女性が家事に費やすのは週53時間ですが、男性は週12時間だけ(国際社会調査プログラム2012)。これでは必然的に女性が育児をしなくてはならず、物理的に仕事と両立できません。家事の負担が解決されないと男女間のギャップは縮まらないままです」

■フレックスで育児・介護を

――どうすればいいでしょうか。

「仕事と家事・育児を両立できる環境を作るには、有償・無償にかかわらず労働のあり方、通勤方法、お互いが助けあって働ける仕組みを作らないといけない。これが実現しない限り、女性がキャリアを追求したいとき、結婚が負担だと思い続けけることになります。本来は『仕事を続けること』と『パートナーと暮らすこと』は両立できないといけないのに、日本はまだまだ自由に選択できにくい環境にあります。

働き方を変えることは、超高齢化社会でどう経済を維持していくかという点でも重要です。3人に1人が65歳以上になり、働き盛りの男女が親を介護しないといけなくなる時代が必ずやってきます。高齢者全員が介護施設に入れないので、9時に出社して、5時まで会社にいるという今のシステムではやがてうまく回らなくなるでしょう。ジョイセフではフレックスタイム制でスタッフが可能な時間に仕事し、育児や介護ができるようにしています」

――ジェンダーギャップの解消が超高齢化社会の日本を救うという考えは興味深い。

「ただし、リモートワークや多様な働き方を女性だけがやるのは不合理です。子どもを寝かしつけて、介護が終わった後に仕事をする男性はあまり見ません。

いろんな働き方を自然に受け入れられる社会になってほしい。そうすればもっと自由な生き方を選択でき、豊かな人生が送れると思っています。

毎日の親の介護で心身ともに疲労している女性たちも、育休中で職場復帰できるか不安を抱えている女性たちも、自分の人生は家族を守るだけで精一杯とパートで働く女性たちも、みんなが健康で前向きに生きられる社会を実現させることが私の夢です」

 

SDGscivilsocietynetowork_logoSDGs市民社会ネットワークとは
(この連載は、ganasとSDGs市民社会ネットワークのコラボレーション企画です)
「SDGs 市民社会ネットワーク」は、2015年9月に国連総会で採択された、17の地球規模課題をまとめた「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals: SDGs)の達成をめざして行動するNGO/NPOなど市⺠社会のネットワークとして2016年4月に発足しました。「誰も取り残さない」かたちで貧困や格差をなくし、持続可能な 世界の実現をめざすというSDGsが掲げる各課題について、日本の NGO/NPO の幅広い連携・協力を促進し、民間企業、地方自治体、労働組合、専門家・有識者などとの連携も進めていきます。SDGs市民社会ネットワーク HP:http://www.sdgscampaign.net