「俺の趣味は『家族』だ」、ヤンゴンの貧困地区・ダラのサイカー運転手は一家の大黒柱

DSC_0097インタビューに答えるティンウィンさん(写真中央)。奥さんとは幼馴染みだった

家族のために働くのが俺の趣味だ――。こう語るのは、ミャンマー最大都市ヤンゴンで、貧しい人々が暮らすダラ地区のサイカー(自転車の横に座席を付けた簡易タクシー)運転手、ティンウィンさん(43歳)。妻(32歳)と高校生になる息子2人(18歳、15歳)、娘(5歳)の5人家族の大黒柱だ。家族の話になると、自然と笑みがこぼれる。

ティンウィンさんは、ヤンゴンのダウンタウンからヤンゴン川を挟んだ対岸のダラ地区(ダラに一度も行ったことがないヤンゴン大学生の学生は少なくない)で生まれ育った。小学校を卒業した後、11歳から38歳までの間は、川の船着場から郵便局まで荷物を運ぶ肉体労働をしていた。かつての日当はおよそ4000チャット(約400円)だった。

5年前にサイカーの運転手に転職した。ティンウィンさんはその理由について「歳をとるとできない仕事だとわかっていた。だから、いつかサイカーを買おうと思ってコツコツ節約していたんだ」と語る。

サイカーの運転手になるためには、乗り物本体の費用だけでなく免許申請料も必要となる。初期費用として必要な金額は20万チャット(約2万円)ほどだ。大半の運転手は1日1000チャット(約100円)でサイカーをレンタルする。しかし、ティンウィンさんはその初期費用を一括で支払いサイカーを購入したのだ。

ティンウィンさんの1日の収入は多い日で1万チャット(約1000円)、平均すると6000チャット(約600円)ほどだ。「1年中休みなく働いている。雨季になると収入は減るが、息子2人を高校に行かせることができている。今の仕事には満足しているよ」と彼は話す。「趣味なんかない。家族のために働くことに集中しているし、それが俺の趣味みたいなものだよ」と笑う。

ヤンゴンの3月は連日、最高気温が35度を超える。ダラ地区はサイカーの運転手にとって過酷な労働環境だ。しかし、ティンウィンさんは「前の仕事よりキツくないし、できることなら100歳まで続けたい」と話す。

今の彼の夢は、5歳の娘を高校に行かせて、きちんと卒業させること。「俺は5年間(ミャンマーの義務教育は小学校のみの5年間)しか学校に通えなかった。子どもたちにはきちんと教育を受けさせたい。俺みたいじゃなくて、公務員になってほしいから」

ダラ地区の庶民の足、サイカー。昼間はとても暑いのでなかなか客がつかまらない

ダラ地区の庶民の足、サイカー。昼間はとても暑いのでなかなか客がつかまらない