国際協力NGOと被災地のつながり (2)~途上国支援はどう変わるのか~

ロゴ

東日本大震災の被災地支援で、その効率については賛否両論あるにせよ、国際協力NGOが大きな役割を果たしているのは間違いない。目立ったものを拾っても「震災直後の救援」、「資金調達」、「ボランティア動員」の3つがある。これらの功績は、国際協力NGOの本来のミッションである途上国支援とどう結び付くのかを考えてみたい。(前回はこちら

■国際協力NGOの機動力が自衛隊・行政をカバー

「国際協力NGOの大きな功績のひとつは、なんといっても初動の速さだ。自衛隊が対応できなかった部分をカバーできたことは阪神・淡路大震災(95年)のときとの大きな違い」

こうした見方はNGO関係者の共通するところだ。とりわけメディアが大々的に報じたのは、震災の翌日、ピースウィンズ・ジャパン、アドラ・ジャパン、チャリティ・プラットフォーム、ジャパン・プラットフォームの4つのNGO・NPOがパートナーを組み、公益社団法人シビックフォース(災害時の緊急即応チーム)を通じて、ヘリコプターを被災地に飛ばしたこと。その後、物資の配布や炊き出し、災害ボランティアセンターの運営を多くの国際協力NGOが担っていったことは記憶に新しい。

とりわけ緊急援助に強いこうしたNGOの活躍は、国際協力の世界と縁遠かった人たちに強烈なインパクトを残した。実際、個人レベルで支援したい団体を選び、寄付を募ることができるファンドレイジングサイト「ジャスト・ギビング・ジャパン」でも、2011年9月下旬時点の寄付金総額約7億6000万円のうち、ダントツで多く支援先として指名されているのはシビックフォース(集まった金額は約6億4000万円)だ。2位にもピースウィンズ・ジャパン(同約3600万円)が入っている。

これは、国際協力NGOが東日本大震災の支援でもその力を発揮し、彼らのプレゼンスを一般社会が認めたことの証左といえなくもない。

■今年はプラットフォーム元年? JPFは65億円調達

支援に欠かせない資金の調達でも、国際協力NGOは一役買った。欧米や韓国などに本部をもつ外資系NGOは、自らのネットワークを駆使して海外で寄付を集め、それを東北での活動資金に当てた。

国内に目を移すと、注目すべきは、国際協力NGOと経済界、日本政府が共同で設立したNGO「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」の存在だ。34のNGOが加盟するJPFは、海外で災害が発生した際、日本のNGOが緊急援助を迅速に展開できるよう主に資金面でサポートする団体で、ハイチやスリランカ、パキスタンなどで救援実績がある。

未曾有の国内災害となった3.11でも、JPFは十二分に機能した。11年3月11日から8月31日までにJPFが調達した資金は65億円超。このうち約45億円をすでにJPF加盟NGOに助成し、21団体(43件)がこの資金を使って被災地で活動している。

規模の大きなプロジェクトとしては、難民を助ける会(AAR)の「福島県浜通り相双地域6市町村被災者に対する生活必需品の配布」(約6億7000万円)やジェン(JEN)の「石巻市応急仮設住宅供給物品の配布」(約6億6000万円)、アドラ・ジャパンの「福島県の被災者に対する生活必需品支援」(約6億3000万円)などがある。

官・民・NGOが連携するこのメカニズムが3.11で65億円もの資金を集めたことについて、国際協力NGOが加盟するネットワーク型NGO「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長は「市民社会が弱い日本で、革新的な仕組みを作り、それをうまく動かせば、相当規模の資金調達が可能であることが証明された」と評価する。

日本の国際協力NGOはこれまで、欧米のNGOと比べて、資金力の弱さがネックだった。3.11は国内の震災だったが、仮に途上国で自然災害が起きたときも同じように資金が集まれば、日本の国際協力NGOにとっては大きな意味合いをもつ。

阪神・淡路大震災に見舞われた95年は“ボランティア元年”と呼ばれた。3.11を経験した2011年を“プラットフォーム元年”と名付ける向きもあるが、本当にそうなるかどうどうかは「次」にかかっている。

■ピースボート、災害ボランティアの海外派遣も

被災地へのボランティアの動員で、その規模と出足の速さで名をとどろかせたのは、「地球一周の船旅」で有名な国際交流NGO「ピースボート」だ。3月25日からボランティアを宮城県石巻市に送り込み始め、その数は8月末までで6695人を数える。当初の活動の柱だった「炊き出し」では、8月末までで10万食以上を提供したという。現在は炊き出しから、泥かきや漁業支援へ活動の軸足を移しつつある。

ユニークなのは、ボランティアに参加した人たちの多様性だ。6695人のうち、その5%に相当する341人(48カ国)が海外から駆け付けた。また、企業・団体が派遣した社会人ボランティアも1460人と、全体の2割超を占めている。

社会性が問われるいまの時代、企業は社員を被災地の支援活動に参加させたい。また個人としても被災地でボランティアをしたいという願望がある。市場調査会社インテージが7月26~28日に全国(被害地域を除く)で実施した「東日本大震災後の生活者の意識と行動調査・第3弾」(回答数2870人)の結果をみても、「5割以上の人が、機会があれば被災地でボランティア活動をしようと思っている」と答えている。

こうしたニーズの受け皿となっているのが、ピースボートやハビタット・フォー・ヒューマニティー・ジャパンなどの国際協力NGOだ。被災地ではまだまだ人手が欲しいのに、学生ボランティアの数は右下がり。「ボランティアの安定的な派遣にも社会人は貴重な戦力」(ピースボート広報)という。

さらにピースボートは、3.11の経験を発展させ、世界中の災害に対して支援できる体制を構築しつつある。災害に対する緊急・復興支援活動を専門に手がける一般社団法人「ピースボート災害ボランティアセンター(PBV)」を4月中旬に設立。来月後半には、ボランティアリーダーを養成するトレーニングセンターも石巻市に開設する。このセンターでは、ボランティア経験者を対象に、自治体との協働方法や応急処置のやり方などを1週間の座学で教え、年間500人(1週間に10人程度)のリーダー育成を目指す。

「たくさんのボランティアの活動を可能にするには、コーディネートするリーダーが不可欠。3.11ではリーダーを育てるのに数週間かかってしまった」(同)

ピースボートは今後、リーダーを核とするボランティアを組織化し、国内はもとより、海外の災害に対してもボランティアを積極的に派遣していく計画だ。

■災害に弱い女性を守れ、オックスファムが働きかけ

国際協力NGOならではの“顔の広さ”を利用して、新たなネットワークの立ち上げに尽力した国際協力NGOもある。英系の国際協力NGO「オックスファム・ジャパン」だ。被災地の女性を支援するNPOや市民グループなどに参加を呼びかけ、国内外の女性支援団体をつなぐ「東日本大震災・女性支援ネットワーク」を5月に誕生させた。

背景にあるのは、災害のたびに女性がDV(ドメスティックバイオレンス)などの“別の被害”にあってきたという悩ましい事実だ。内閣府は、阪神・淡路大震災の教訓をもとに、復興や生活支援で女性の視点を尊重する指針を打ち出している。しかしオックスファム・ジャパンの米良彰子事務局長は「よく言われることだが、洗濯物を干す場所、着替えの場所などをどう確保するのか。この方針は十分に適応されていないのが現実だ。途上国の災害対応でも、ジェンダーの視点が盛り込まれているのに」と指摘する。

横のつながりによってエンパワーメントされたこのネットワークは、女性の権利について政策提言し、被災した女性たちの声や要望が法律や制度に反映されるよう働きかけていく。すでに、災害時も女性に対するDVや性暴力を許さない社会づくりなどをテーマとする連続学習会の開催をはじめ、「復興計画の策定・実施を担う組織に女性を最低30%参画させること」「被災市町村にDV相談支援センターを設置すること」などをまとめた要望書を国や被災3県の知事に提出している。

これまでは途上国の人々に限定して支援してきた国際協力NGO。3.11を契機に国内にも目を向けざるをえなくなったことが、結果として彼らの活動をより双方向に、そしてより多角的にさせている。(つづく