南アフリカの寿命、HIVプログラム効果で54歳から60歳に

南アフリカの平均寿命が延びている。2005年の54歳から、11年は60歳になった。その背景にあるのがHIV・エイズ対策。HIV治療で有名な抗レトロウイルス薬(ARV)を広く配布したため、30代の死亡率が下がったからだ。12月3日付ガーディアンが報じた。

タボ・ムベキ大統領(99~08年)の政権下では、HIV対策として「カブとショウガが効果的」との見解に立脚したプログラムが進められた。このため05年を例にとると、13万3000人にしかARVは処方されず、新規HIVの新規感染者は190万人にも上った。工場で働く20~50代の働き手が次々に死んでしまい、南アフリカの産業は壊滅的打撃を受けたといわれる。

この事態を重くみた南アフリカ政府は07年、HIV・エイズ対策として160億ドル(約1兆3000億円)を投じた。これは低所得・中進国の拠出額としては突出した規模だ。

こうした政策転換が功を奏し、南アフリカでは100万人以上の命が救われた。HIV陽性者で、同国の裁判官を務めるエドウィン・キャメロン氏は「科学の力で、人の命を救うことができるようになった。エイズ問題は対応不可能だとみんな思っていたが、やればできる」と語る。

国連開発計画(UNDP)によると、南アフリカに隣接(ほぼ中にある)し、経済発展が著しい南アフリカに出稼ぎにやって来る人が多いスワジランドの平均寿命は09年時点で32歳。またレソトでは3人に1人がHIV陽性者といわれる。

これは言い換えれば、南アフリカでHIVに感染した出稼ぎ労働者がそれぞれレソト、スワジランドに帰国し、母国でHIVの爆発的感染を生んだことを意味する。まだまだ貧しいレソトやスワジランドは、南アフリカのように、HIV・エイズ対策に投じる資金を手当てできないのが現実だ。(今井ゆき)