【yahman!ジャマイカ協力隊(14)】楽園の裏の顔はセックスツーリズム、そこで目にする“奴隷精神”

0927写真上ジャマイカの3大観光地として有名な同国西部のネグリルのビーチ。セックスツーリズムが盛んな場所のひとつ

「楽園」と聞いて、思い浮かべるのはどんなイメージだろうか。

青い空、白い砂浜、そして輝く海が広がり、黄金の太陽が降り注ぐ。空に向かって直立に伸びるヤシの木々が潮風にそよいでいる。ココナツジュースを飲みながら、砂浜に寝転がる。至福の時を邪魔する人は誰もいない。

私が1年半暮らすジャマイカ東部のポートランドはそんなイメージに近い。週末にビーチを訪れても、混雑とは無縁。美しい自然を存分に楽しめるジャマイカは楽園なのかもしれない。

ジャマイカを楽園と呼ぶジャマイカ人も現にいる。「温暖な気候だから、路上で寝ても凍死しないし、そのへんになるココナツやマンゴーの実を食べていれば、餓死もしない。お金はなくても生きられる。まさに楽園だ」と。

■妙な年の差カップルを見た

そんな楽園にも「裏の顔」があると気付いたのは、ジャマイカを代表する観光地のひとつ、同国西部の町ブラックリバー(セントエリザベス州)を訪れた時のことだった。

ブラックリバーにはその名の通り、53キロメートルに渡って黒い川が流れている。川の水は実は透明なのだが、腐った植物や藻が川底に積み重なったせいで黒く見える。ブラックリバーは、モーターボートに乗ったサファリツアーが有名で、野生のワニやマングローブに生息するサギなどをすぐ近くで観察できるのがウリだ。

私はツアーの出発を待つ間、友人や他の観光客と昼食をとっていた。その時ふと視覚に入ってきたのが、力士のように丸々と太った中年の白人女性。彼女は、派手な柄のワンピースを着て、肌を露出していた。大きなからだを揺らし、楽しそうに歩いている。二十歳前後と思しきジャマイカ人の青年がぴったりと寄り添い、彼女の腰に手を回していた。

歳の差があるふつうのカップルでないのは明らかだった。なぜならその横に同じような男女ペアが3組いたからだ。そろいもそろって肥満体形。お世辞にもきれいとはいえない中年女性3人は、どうやら友人同士のようで、おしゃべりに花を咲かせていた。

■買春する白人女性の楽園?

私はポートランドの自宅に帰った後、ブラックリバーで見たことについてインターネットで調べてみた。すると「セックスツーリズム」という言葉にたどり着いた。

2006年公開の「Rent a Rasta」(ラスタを借りる)という45分のドキュメンタリー映画によれば、フランスやカナダ、ドイツなど欧米から毎年およそ8万人の女性が、ジャマイカ人男性目当てにジャマイカを訪れるという。恋人を求めているわけではなく、目的はひと夏のアバンチュールだ。毎年のようにジャマイカに通い、ジャマイカ人男性にお金や宝石などの贈り物をする。

だが白人女性はなぜ、ジャマイカ人男性を欲するのだろうか。映画は、その理由を次のように説明していた。

太りすぎ、歳をとった醜い女性が、若くて細いセックスパートナーを探そうとしても、人種や経済レベルが似た国ではうまくいかない。だがジャマイカなどの貧しい国ならば簡単に見つかる、と。要は、金持ちの男性が東南アジアに買春旅行に行くのと同じ構図だ。

そしてなにより、白人女性を虜にするのは、ジャマイカ人の巨大な男性器。自分の国では価値を認めてもらえない女性でも、ジャマイカに来れば女性として扱ってくれ、また夜の生活も満たしてくれる。だがそうなると、ジャマイカはいったい誰のための楽園なのだろうか。

セックスツーリズムが主要産業のひとつだとしたら、私は正直、良い気がしない。お金を持った白人女性に依存して生計を立てるジャマイカ人男性たちは、いいように利用されている奴隷にしか感じられない。独立して50年も経つというのに、いまだにジャマイカ人は“奴隷精神”から抜け切れていないのだろうか。セックスツーリズムが続く限り、ジャマイカは途上国であり続けるのかもしれないと思った。(原彩子)