【yahman!ジャマイカ協力隊(15)】ジャマイカ流ワークシェアリングを学ぶ、オフィスで昼寝するのは悪くない!

ポートアントニオにあるゴーゴークラブ「クリスタル」。特別なイベントがある日は、隣の人と肌が触れあうほどに大勢の若者が詰めかけるポートアントニオにあるゴーゴークラブ「クリスタル」。特別なイベントがある日は、隣の人と肌が触れあうほどに大勢の若者が詰めかける

「あしたのことなんか誰も気にしない。眠くなったらオフィスで昼寝すればいいのさ」。ジャマイカ人の友人はそう言って笑った。この台詞を聞いて、私は拍子抜けしたと同時に、妙に納得した。今回はジャマイカ人の仕事に対する考え方について書いてみたい。

■木曜にオールナイト! 翌日はオフィスで寝る

私が暮らすジャマイカ東部のポートアントニオ(ポートランド州)では毎週木曜日、「ロードブロックパーティー」というイベントがある。ロードブロックバーという名の小さなバーの周りに、移動式の音響設備を置いて、大音量のレゲエ音楽を流す。集まってくるのは、おしゃれをした大勢の若者たちだ。

このパーティー自体は午前0時前にはお開きとなる。でもジャマイカの夜はまだ終わらない。ほとんどの若者はその後、すぐ近くにあるゴーゴークラブ(ストリップショーのあるクラブ)に流れ、二次会に突入。ナンパ、酒、ダンス、それぞれが思い思いに楽しむこの宴は朝まで続く。

私はポートアントニオに1年半以上住んでいながら、そのパーティーに行ったことがない。なぜなら木曜日だからだ。翌日の活動に支障をきたすし、青年海外協力隊員としても平日の夜遊びは問題。週末であれば様子を見に行けるのにな、と思って、私は、ジャマイカ人の友人に質問をぶつけた。

「なんでパーティーは木曜なの? 金曜はみんな仕事があるでしょ」

その答えが冒頭の発言だ。それにしても、なんと夜遊びが好きな国民なのだろう。「夜遊びで疲れた」と誰かがうとうとしても、誰も責めないのがジャマイカ流。私の働くオフィスでは実際、私以外のスタッフ全員が寝ていたこともある。

■経費削減より「雇用創出」、治安の予防効果も

気になるのは、寝ていても仕事は終わるのかということだ。ジャマイカ人の働き方をある種の「ワークシェアリング」だと別の協力隊員が形容していたが、このとらえ方は妙に納得がいく。

私のオフィスには、週3日午前中だけ働く事務員がいる。主な仕事は、オフィスの掃除、買い物、書類整理などの雑用だ。仕事が何もない時は、いすに座って昼寝をするか、ラジオを聴くか、携帯電話をいじっている。しかし彼女に不平を言うジャマイカ人は誰もいない。

私の配属先はNGOだから、何かにつけて予算がないということが問題になる。現に、私が取り組んでいる環境教育に対する予算もゼロに等しい。お金がなければ、節約が必要と考えるのが必然だ。日本人の私からみれば、真っ先にカットできるのは人件費。雑用は、週5日勤務の秘書が兼任できる。秘書もすることがなくて、時間を持て余している姿をよく見かける。

こんな無駄があるのに、放置するのはなぜだろう、と私はずっと頭の片隅で気になっていた。でも、少ない仕事を大勢で分け合い、なるべく多くの雇用を確保するワークシェアリングを実践していると考えればしっくりくる。仕事に完璧さ、正確さ、効率を求めすぎてはいけない。雇用を減らせば、国内はさらに失業者であふれ、路上生活者は増える。ただでさえ殺人に遭う確率が日本の100倍近いのに、治安はもっと悪くなるだろう。

ジャマイカ人の平均収入は日本の10分の1程度だ。その代り日本人のようにあくせく働かなくてもいい。仕事中に女性を口説いたり、雑談に花を咲かせたりと「余裕のある働き方」をする方がよっぽど人間らしい気がする。疲れた時は堂々と昼寝。そのおかげで“ジャマイカ流ワークシェリング”は、より多くの人に仕事の機会を与えている。

ジャマイカではオフィスの昼寝は悪くない。ただそうわかっていても、いまだに罪悪感を覚え、寝られない私。ジャマイカ人スタッフが昼寝したり、雑談している横で、無言でパソコン作業に集中してしまう。ジャマイカ流の仕事術を身につけるのは、日本人にとってそう簡単ではなさそうだ。

 

原 彩子(はら・あやこ)
ジャマイカ・ポートアントニオ(ポートランド州)で活動する青年海外協力隊員(職種:環境教育)。埼玉県出身。日大芸術学部卒。在学中は、フィリピンの児童養護施設を運営するNPO「CFF」で奨学金支援チームのメンバーとして活躍。電機メーカーに3年半勤務した後、2012年2月から、ジャマイカの農業NGO「ジャマイカ4-Hクラブ」ポートランド事務所で活動中。