「出稼ぎ」と「浮気」は切り離せない。フィリピンといえば出稼ぎ立国だが、浮気をするのは出稼ぎする人だけではない。国内に残された夫・妻もそうだ。浮気をきっかけにネグレクトが起こり、子どもが非行に走ることもある。この事態を重くみたカトリック教会は、海外出稼ぎ労働者とその家族を支援する。
「私のいとこ(35歳、男性)が浮気された」。そう話すのは、ネグロス島南部のサンボアンギータ町に住む20代の女性だ。いとこがサウジアラビアで出稼ぎをしている間、その妻が浮気をし、夫から送られてきたお金を浮気相手のために使ったのだという。子どもたちの生活は当然困難に。親せきのひとりがいとこに知らせ、妻の行為が発覚した。いとこはその後フィリピンに帰国し、いまは子どもたちと一緒に暮らす。
浮気は、残された夫・妻、出稼ぎ労働者の双方でよく起こることだという。国内にいても、夫・妻と離れて暮らす寂しさが原因で浮気をするケースが後を絶たない。
フィリピンの人口の1割にあたる約1000万人が海外で働く。フィリピン経済を支えるのは、海外出稼ぎ労働者の存在だ。在外フィリピン人からの本国送金額は258億ドル(約3兆円)にのぼり、国内総生産(GDP)の約1割に相当する。
浮気がなくても、出稼ぎは家庭に問題をもたらす。夫がサウジアラビアで出稼ぎ中で、サンボアンギータ町に近いバコン町に住むウィルマ・パティルーナさん(50)は「私は、学校に通う3人の子どもと暮らしているけれど、夫からの送金は定期的じゃない。私の月収はわずか5000ペソ(約1万1000円)。お金がないうえに、夫がいない間、家庭のことを私がぜんぶ決めなくちゃいけない。それが負担なの」と不満を漏らす。
出稼ぎが抱えるフィリピンの社会問題に、バコン町のカトリック教会もアプローチし始めた。まず、出稼ぎ労働者と残された家族の両方のために「出稼ぎ労働者委員会」 を設置。残された家族(親、子ども)に対して、送られてきたお金の管理方法を教えている。委員のメンテス・サンティストバンさん(49)は「子どもがドラッグに走ることもある。教会が親の役割を果たしたい」と話す。委員会はまた、出稼ぎ労働者に対しても支援の手を差し伸べる。雇用主から暴力を振るわれた出稼ぎ労働者がいる、との情報を得るとすぐにフィリピン政府に連絡し、解決につなげたケースもある。
浮気を、ネグロス島があるビサヤ地方の言葉では「アリバンバン」という。アリバンバンは「チョウ」を意味し、「チョウのように花から花へと浮気する」ことを表すスラングだ。