「映らないテレビ」はインテリア? セブのごみ山で暮らす人たちの“ささいな贅沢”

0320土屋くん、P1050848フィリピン・セブ市にそびえ立つごみ山

フィリピン・セブ市イナヤワン地区にそびえ立つごみの山。その目の前で生活するジェイソン・モンテロンさん(20歳)の家は、屋根はトタン、壁は竹でできている。室内はとても暑い。そんな家で生まれ育ったジェイソンさんをインタビューしたところ、彼の暮らしぶりを示す3つのフレーズが浮かび上がった。「携帯メールと電話の機能が使えないスマートフォンを持っている」「使えない家電を家に飾る」「電気の供給時間が限られている」だ。

ジェイソンさんが使うスマホは、露店で1200ペソ(約3000円)で売られていたものだ。通常の携帯電話のように携帯メールや電話などの機能は使えない。なぜならSIMカードを入れていないからだ。

そこでジェイソンさんは、近所の人が持っているwifiを借り、インターネットにつなげる。そうすればGmailやフェイスブックは使えるので、こうしたアプリを駆使して知り合いと連絡を取っている。「SNSだけでなく、カメラ機能もよく使うよ」とジェイソンさんは満足気だ。

ジェイソンさん一家の居間兼寝室には、実はたくさんの家電がある。その多くはごみ山から入ってきたものだ。代表格はブラウン管テレビ。壊れて使えないにもかかわらず、「インテリア家具」として置かれている。「直すお金がないから」とジェイソンさんは苦笑いする。

居間兼寝室にある棚の上には7台の携帯電話が置かれている。そのすべてが「使えないよ」とジェイソンさん。なぜ使えないケータイを大事に飾っているのかと尋ねると「単に部屋の見栄えを良くするためさ」。

セブ市内の中級ホテルでガードマンを務めるデクスター・ピラピルさんも同じ考えの持ち主だ。テレビ1台、スマホ3台、使えないにもかかわらず家に置いてあるという。「テレビやケータイを家に飾っておくと、見た目が良くなる。使えなくなったものを捨てるのももったいないし。他人にあげることもある」(デクスターさん)

フィリピン人には「サヤン(タガログ語やビサヤ語で「もったいない」の意)の文化」がある。フィリピン人が使えない家電を大事にとっておくのもサヤンだからかもしれない。

ごみ山の前のコミュニティではまた、電気の供給時間が夕方の5時から翌朝の4時までに限られている。にもかかわらず、ジェイソンさん一家の電気代は毎月300ペソ(約720円)と安くない。日中は電気が使えないことで、一部の部屋の中は薄暗く足元が見えづらい。スマホの充電もできない。ジェイソンさんは「wifiも夕方5時以降しか使うことができないので、それまではネットが使えない」と不満を漏らす。

ごみ山ならではのユニークな暮らしを見せてくれたジェイソンさん。世界のベクトルは今、「新たなどう製品を生み出すか」という方向に向いている。「使い終わったものをどのように生まれ変わらせるか」ということに考えを巡らせることも少しは必要なのかもしれない。

ジェイソンさん(写真右から2番目)とその家族。家はごみ山のすぐ目の前にある(フィリピン・セブ市のイナヤワン地区で撮影)

ジェイソンさん(写真右から2番目)とその家族。家はごみ山のすぐ目の前にある(フィリピン・セブ市のイナヤワン地区で撮影)

ジェイソンさんのスマホ

ジェイソンさんのスマホ