女性が出産で死亡するのはありふれたこと? 妊産婦の健康を守るには女性の「地位向上」が欠かせない!

ジョイセフの福田友子アドボカシーグループチーフジョイセフの福田友子アドボカシーグループチーフ

妊娠や出産で世界では1日約830人の女性が命を落とす――。これは大型飛行機が2機落ちるのと同じぐらいの数だ。妊産婦、新生児のヘルスケアを専門とする国際協力NGOジョイセフの福田友子アドボカシーグループチーフは「適切な医療サービスを受けられれば、死亡した妊産婦の67%は助けることができる」と訴える。途上国で妊産婦が医療サービスを受けられないのは、病院や道路が整備されていないためだけではない。「女性の社会的地位が低く、病院に行こうと決めるのが遅れてしまうためだ。女性が出産で亡くなるのはありふれたことになっている」と福田氏は語る。

■救急車を呼ばない?

福田氏は2012年3月に、健康教育のためにどんな教材が必要なのかを検討するため、東ティモールのエルメラ郡で聞き取り調査をした。調査に応じてくれた男性のひとりは52歳。数週間前に妻を出産で失ったばかりだった。妻は47歳。これまでに11人の子どもを産み、そのうち4人が死んでいる。

男性は妻が出産した日、出産が近いことが分かっていたにもかかわらず、大統領選挙の手伝いのため隣町に行っていた。妻の出産でトラブルが起きていると連絡を受け、男性は帰宅。救急車を呼ぶために連絡するまで数時間、さらに救急車が来るのに数時間。救急車が着いた時、すでに妻は息を引き取っていた。「もっと早く病院に行っていれば、妻は助かったかもしれない」(福田氏)

男性が住む町は、病院があるエルメラ郡の中心都市グレノまで車で20分、東ティモールの首都ディリからも車で2時間ぐらいの場所だ。「それほど僻地でもないのに、病院に行くのに時間がかかってしまう。それは女性の健康問題が軽んじられているからではないか」と福田氏は問題提起する。

妻を亡くした男性は、悲しんでいたが、女性が出産で亡くなるのはよくあることで、仕方がないことだと諦めていたという。

■保健施設で出産を!

妊産婦が病院に行くのが遅れる原因のひとつに、女性が病院に行きたいと言い出せない環境がある。女性が病院に行くと家事や畑仕事を休むことになるうえに、診療費は無料でも、交通費や薬代がかかるためだ。夫、父、義父などの許可を得る必要もある。出産は病気ではないため、理解を得られないこともざらだ。

「女性はもとより、男性に対しても妊娠・出産のリスクを啓蒙することが欠かせない。自宅ではなく、コミュニティにある保健施設での出産を促すことは、妊産婦の健康問題のひとつの解決策になる。妊娠中に妊産婦健診を定期的に受け、リスクを早く発見することも大事」と福田氏は話す。

ジョイセフは2014年12月~2017年11月の3年間、ザンビアのコッパーベルト州で、診療所の近くにマタニティハウスや助産師、看護師の住まいを作った。このメリットは、1カ所に来れば妊産婦の保健サービスをすべて受けられること。マタニティハウスは妊産婦が泊まって出産を待つための施設で、出産予定日の2週間前から滞在可能だ。マタニティハウスの壁には、男性も含めた住民みんなで考えた絵とメッセージ、ストーリーがペイントされている。プロジェクト対象の10地区(コッパーベルト州マサイティ郡5地区とムポングェ郡5地区)では、保健施設で出産する女性の割合は2013年の30.5%から2016年には44.3%と約1.5倍に増えた。

「妊娠・出産を安全にするためには、適切な医療サービスを病院やクリニックが提供するだけでは不十分。地域や家族が一丸となって、妊娠・出産のリスクを認識し、医療サービスを女性が受けられるよう環境を整えることが必要だ」(福田氏)