“儲かるオーガニック農業”を広める団体がベナンにあった! 地域のものを賢く使えば実現できる

儲かるオーガニック農業を普及するために活動するアコスデさん(ベナン・アボメカラビで撮影)儲かるオーガニック農業を普及するために活動するアコスデさん(ベナン・アボメカラビで撮影)

西アフリカのベナンを拠点に、持続可能な社会の達成に向けて活動するネットワーク団体がある。その名前は、ALDEN(African Leaders and Sustainable Development Network)。活動の目玉のひとつは、“儲かるオーガニック農業”を普及させること。代表者のアコスデ・ホーレス・コウグニアゾンデさんは「周りのものをうまく活用すれば実現可能。必要なのはノウハウだ」と熱く語る。

■コショウ・石けん・ニーム・尿

ALDENが活動するうえでこだわるのは、「地域のものをなるべく使うこと」「費用対効果が高いこと」「環境に配慮すること」の3つ。この観点から進めるプログラムのひとつが「エデュファーム」だ。Education(教育)とFarm(農業)を掛け合わせた言葉で、文字通り、儲かるオーガニック農業のやり方を農家に教える5年のプログラムだ。

エデュファームの実施場所のひとつが、ベナン最大の都市コトヌーから北に1時間半のところにあるパイナップルの産地アラダ。エデュファームでは、3日間のセッションを数カ月ごとに開く。

経費を節約するため、ALDENのメンバーのひとりの父が所有するホテルを無料で会場として借りた。食事も無料で提供してもらう。メンバーがお金を出し合い、バッタ被害の専門家をニジェールから呼んだこともある。農民の参加費は無料だ。

プログラムの1日目の内容は、土壌の改良の方法、水の使い方、たい肥の作り方を学ぶ。化学肥料を使わないで済むように、周囲に落ちている木の葉と土などを混ぜ、たい肥を作って、農地にまく。収穫量を上げるには肥沃な農地は必要だ。

2日目は、農作物の守り方を学ぶ。殺虫剤を使わずに、農作物が虫に食われないようにするのが目的だ。代わりに、オーガニックの虫除けを作る。コショウ、苛性ソーダが入っていない伝統的な石けん、ニームから抽出した油、尿を混ぜる。すると液体の虫よけが完成する。それを作物にスプレーするだけだ。

「作物は常に、ネズミや虫などに食われるリスクを抱えている。かといってそれらを殺す権利は人間にもないはず。だから殺さないで、作物を守る方法をとる」(アコスデさん)

虫に食われないようにするため、トウモロコシとニンニクを交互に植えるやり方もある。ニンニクのにおいを虫が嫌って、隣で育てるトウモロコシに虫が寄ってこないという。

アコスデさんは言う。「自然を使って、自然を助ける。その自然は、自分のすぐそばにある。ただそれを活用できる知識がないだけ。なるべく働く時間を短くして、収穫を増やすことを目指す。これが儲かるオーガニック農業だ」

3日目は、作物をそのまま売るのではなく、加工するやり方を考える。パイナップルを例にとれば、ベナンでは常に、供給は需要を上回っている。そのため売れずに捨てられることもざらだ。

そうした損失を避けるため、保存できる別の製品へ加工したほうが儲けは出やすい。ドライパイナップル、パイナップルジュース、パイナップルゼリーはもちろん、パイナップルの繊維を原料に服や靴を作ることも可能だ。

「作物をそのまま売るのではなく、さまざまな製品をつくる部門を作りたい。農民の収入アップにつながる。さまざまな商品のマーケットがつながって、物々交換できるようになれば理想。貨幣経済のその先に行ける。これは私の夢だ」とアコスデさんは将来像を描く。

セッションのテーマは、オーガニック野菜・果物の作り方・売り方はもちろん、雨が降らなかったらどうするか、土地が汚染されていた場合はどうするか、など多岐にわたる。

■コットンは隣の畑も汚染する

ベナンといえば世界有数の綿花(コットン)生産国。コットンは、ベナンの輸出金額の24%(約1億4800万ドル=約163億円)を占める一大産業だ。主な産地はベナン北中部。余談だが、ベナンのタロン大統領は「コットンキング」の異名をもつ。

アコスデさんによると、ベナン北部のコットン農家では、有害な殺虫剤と化学肥料を大量に使っているという。問題は、コットン農家のすぐ隣にトウモロコシや豆を栽培する畑があること。壁がないため、風が吹くと、殺虫剤や化学肥料はトウモロコシ畑に飛んで行ってしまう。その結果、オーガニックで育てていたとしても、その畑のトウモロコシや豆は汚染される。

「この作物を売るかどうか、隣の農家は悩む。健康に悪いから売らないで、せっかく育てた作物を焼き払うモラルが高い農家もいれば、有害とわかっていても家族を支えるために作物を売る農家もいる」

究極の選択。アコスデさんは、こうした問題を引き起こさないためにも、儲かるオーガニック農業を広めないといけないと声を大にする。

■起業家も続々誕生

ALDENを2013年から運営していくなかで、予想外の効果もあった。それはメンバーが、プロジェクトの経験をベースにビジネスを立ち上げたり、大学院に進学したりステップアップしていったことだ。

ALDENの創設メンバーのひとり、トンガイ・バーハン・グニコボウさんは2016年、オーガニック農業を広める会社を立ち上げた。社名は「レス・ジャーデン・ド・レスパイアー」(フランス語で「希望の庭」の意)だ。農薬や化学肥料を使わずに、コショウやトマト、ホウレンソウ、ミント、スパイス、花を育てるノウハウを有料で教える。

「この会社は、農業をセクシーに、ということも意識している。農作業する服を格好良くするなどして、人々に農業の魅力を伝えている」(アコスデさん)

別のメンバーのヤクブ・ヤスフさんは、ガーナの首都アクラで、オーガニック農業コンサルティング&薬草から製品を作る会社を立ち上げた。社名は「Syenom(サイノム)」。目玉の商品のひとつが、マラリアを予防できる液体タイプのオーガニック石けんを作ること。この石けんは虫除け効果のあるユーカリの成分を含む。マラリアを媒介するハマダラカが寄ってこないようにする。

「寝る前に、この石けんを使ってシャワーを浴びれば、蚊に刺されるリスクが減る。蚊が多い場所では有効だ」(アコスデさん)

世界保健機関(WHO)によると、2018年に全世界でマラリアにかかった人は約2億2800件(回数)。死者は約40万5000人。うち67%(27万2000人)が5歳未満児だ。マラリアで命を落とした人の94%がアフリカで暮らす。

ヤクブさんは、ガーナ第2の都市クマシにあるクワメ・エンクルマ科学技術大学で薬学を学んだ。その後、アクラに上京。どんな病気にかかる人が多いのかを調べた。マラリアや心疾患、呼吸器系の病気が多いことがわかった。自分の薬草学の知識を生かして作ったのがユーカリ石けんだ。

ビジネスだけでなく、勉強を続けるメンバーもいる。カナダで大学の博士課程に通うメンバーは、ベナン北部の街パラクの大学で経済を学んだ後、ブルキナファソで農業経済学の修士号を取得。奨学金を得てカナダに渡った。

アコスデさんは「エデュファームで知識や技術を身につけたひとりひとりが、いろんな場所でそのノウハウを使って活躍することは私にとって誇りだ」と語る。