タイ出稼ぎ歴14年のミャンマー人女性、収入はバンコクの最低賃金の3倍

バンコク在住の外国人に人気のベビーシッター、チョーさん。週6日、朝7時から夜7時まで働く。写真は、バンコクの観光地ワットアルンを休みの日に訪れたチョーさん(チャオプラヤ川の舟の上で撮影)バンコク在住の外国人に人気のベビーシッター、チョーさん。週6日、朝7時から夜7時まで働く。写真は、バンコクの観光地ワットアルンを休みの日に訪れたチョーさん(チャオプラヤ川の舟の上で撮影)

ミャンマー南東部にあるカレン州の州都パアン出身のチョーさん(仮名、41)は14年前にタイに出稼ぎに来て、バンコクでベビーシッターとして働く。収入は1日換算でおよそ1040バーツ(約3640円)。バンコクの最低賃金325バーツ(約1140円)の約3倍だ。「あと2年あればミャンマーで暮らす2人の子どもの大学進学までの費用が十分貯蓄できるはず。やっと故郷に帰れそうだ」と嬉しそうに話す。

■月給9万円の高給取り

チョーさんは1999年にパアン大学を卒業後、地元の公立高校の教師となった。だが当時の月給は約14万8000チャット(今のレートで約1万650円)。年をとった両親を養うためには不十分だった。

2005年、チョーさんは意を決してタイへ単身で出稼ぎにやってきた。最初の1年はバンコクの語学学校でタイ語を学んだ。授業料は年間2万4000バーツ(同約8万4000円)だった。ミャンマーで教師として働いてためた貯金でまかなった。

ベビーシッターとして働き始めたのは2006年。「ベビーシッターの仕事は簡単に見つかる」とチョーさん。タイには中流階級以上の家庭ではベビーシッターを雇う習慣があるからだ。「タイ人の人件費が上がった。だから賃金の安いミャンマー人がベビーシッターとして働くケースが増えた」と説明する。

チョーさんがベビーシッターとして働き始めた2006年と比べ、チョーさんの月給は1.7倍になった。13年前のチョーさんの月給は1万5000バーツ(同約5万2500円)。今は2万5000バーツ(約8万7500円)だ。バンコクの最低賃金である1日325バーツ(約1140円)の約3倍を稼ぐ計算になる。

■秘訣は「信頼」と「語学力」

ベビーシッターの仕事を、チョーさんは、エージェント会社を通じて探す。このやり方が高収入につながるという。

「ベビーシッターの雇い主がエージェントを利用するのは、信頼できるベビーシッターを雇いたいから」と話すチョーさん。雇用主はエージェント会社から、そのベビーシッターが以前の家庭からどんな評価を得ていたかを知ることができる。このため、前の雇用主から評価の高かったベビーシッターは人気となり、おのずと給料も上がっていく。

ちなみにエージェント会社の利用料は、雇い主だと6000バーツ(約2万1000円)、雇われる側(ベビーシッター)は登録料500バーツ(約1750円)と最初の月給の20%。良心的な値段だ。

無料で閲覧できるウェブサイトを使って、ベビーシッターの仕事を探す方法もある。ベビーシッターが自分の経歴や連絡先を載せ、雇用主と直接連絡をとる。

だが無料ウェブサイトの信頼性は下がっている。だからエージェントを使う雇用主が多い。またチョーさんによると、手軽に利用できるウェブサイトを通じて雇ったベビーシッターによる子どもへの虐待が近年増えているという。

ベビーシッターで稼ぐには、信頼に加えて、語学力も武器になる。チョーさんはタイ語だけでなく、英語も堪能。これまでエージェントを通じてタイ在住のフランス人、フィンランド人、オランダ人、ドイツ人、日本人、アメリカ人の家で働いた。

■故郷で家族と暮らしたい

チョーさんは言う。「あと2年はタイで働くつもり。その間に最低12万バーツ(約42万円)は子ども2人の大学進学費用として貯蓄したい」

チョーさんにはミャンマーで暮らす6歳と3歳の子どもがいる。子どもたちはタイで生まれたが、「ミャンマーの言葉や文化を学んでほしい」と2016年に帰国させた。今はチョーさんの両親と一緒に住む。

「パアンで、両親と子どもたちを養うには最低月給1万バーツ(約3万5000円)の仕事が必要。これがなかなか見つからなくて」とチョーさんは顔をしかめた。