総菜パンに天ぷら・焼き飯! 協力隊OBがベナンで日本食ビジネス参入

リンの接客スタッフと綿貫さん。店内には美味しそうなパンが並ぶ(ベナン・コトヌー)リンの接客スタッフと綿貫さん。店内には美味しそうなパンが並ぶ(ベナン・コトヌー)

西アフリカのベナン・コトヌーに地元で人気のパン屋がある。この店の共同オーナーは、青年海外協力隊OBの綿貫大地さんだ。フランス人から買収したばかりのこのパン屋で計画中なのは、総菜パンや天ぷら、焼き飯などの日本食を売ること。「協力隊の経験を生かし、パン屋を起点に事業を広げ、将来は農家の収入アップにつなげたい」と綿貫さんは展望を描く。

■パン屋をチェーン展開へ 

パン屋の名前は「リン」。ベナン最大の都市コトヌーの中心部に位置するリンの周りには省庁や学校もある。主な客層はベナンの富裕層と外国人だ。通学途中の中高生もよく立ち寄るという。コトヌーで美味しいパン屋といったらリン。店は毎日、多くの客で賑わっている。

店頭に並ぶのはフランスパン、クロワッサン、パン・オ・ショコラなどだ。ベナンはフランスの旧植民地だったこともあり西洋のパンばかり。値段は1つ200CFAフラン(約40円)ほどと庶民レベルではないが、さほど高くもない。

リンはパンを売るだけではない。カフェも併設する。席は、建物と中と外にそれぞれ24ずつある。パンだけでなく、オムレツやクレープ、アイスクリームも出す。カフェ部門の売り上げが店の経営を支える格好だ。

売り上げの拡大を目指し、綿貫さんらが取り組んでいるのが新メニューの開発。食パンや具材をはさんだコッペパンなど、日本スタイルのパンの商品化を目指す。ターゲットとするベナン人が好きな辛味を少し足すなど、味にどうアレンジを加えるか、スタッフと試作を重ねているところだ。具に入れる野菜は可能な限り現地で調達する。

「日本の総菜パンをベナンで売るのは私たちが初めて。手ごたえはある」と綿貫さんは語る。

総菜パンの値段は1個500~800CFAフラン(100~200円)となる見込み。現在販売するパンよりも高いが、中間層から富裕層をターゲットにした戦略で、パン屋の収益アップにつなげたい考えだ。

綿貫さんはまた、リンをチェーン展開させるという青写真を描く。「ベナン人を店長に据えて、コトヌーやその周辺の都市で10店舗ぐらいに増やしたい。そうすれば、より多くのベナンの人々においしくて感動を与えるリンのパンを食べてもらえる。パン屋としての収益も安定する」と話す。

■200円で日本食!

綿貫さんらは年内にも、天ぷらや焼き飯など、値段が手ごろな日本食をリンでも提供し始める予定だ。日本人として、ベナン人に日本食を知ってもらいたいというのが理由だ。

リンの基本方針は、現地で採れる食材を使うこと。オクラやキャベツ、ニンジン、トマト、ジャガイモ、トウガラシ、レタス、スーパーフードのモリンガなどを生かしたメニューを考案しているところだ。ベナン人に食べてもらえるように、メニューは辛く味付けする。

コトヌーにはすでに、日本食レストランが2店舗ある。だが、いずれも日本大使館のスタッフや外国人駐在員などが通う高級店。リンは1人当たりの平均単価1000~3000CFAフラン(約200~600円)ぐらいの値段で、中流階級以上のベナン人を取り込んでいきたい考えだ。

リンはまた、現地で採れる野菜を使ったジュースを販売する計画も進めている。材料となるのは、パイナップル、アボカド、パパイヤ、レモン、マンゴー、バナナなど。日本のきな粉や抹茶を入れたジュースも試作中。「ベナン産の農作物は栄養価が高い。これらを利用したジュースを提供することで、ベナン人の病気を少しでも予防できれば」(綿貫さん)

■農業ビジネスに参入したい

パン屋(以前の店名はLa Galette à Sucre=ラ・ガレット・ア・シュクレ)の前オーナーはマリ人とフランス人の夫婦だった。店は繁盛していたという。青年海外協力隊員の間でも、外壁が緑色だったことから「緑のパン屋」の愛称で人気があった。

だがマリへの帰国を望んでいた夫婦は綿貫さんらに店を売却した。買収額は日本で中古の家が一軒買えるぐらいの値段だったという。「安い買い物ではなかったが、ゼロから始めるより得策だと思った」と綿貫さん。

この事業は綿貫さんを含め2人の日本人と協力隊時代に一緒に活動したベナン人1人の合計3人で進めている。新会社Iris&Horae(イーリス&ホーリー)をコトヌーに設立し、綿貫さんは最高執行責任者(COO)に就いた。

綿貫さんらの展望は、パン屋の経営を入り口として、農業ビジネスに参入することだ。農業従事者が国民の6~7割を占めるベナン。「農民の収入をあげることは大きな課題。お金がない=不幸せとは思わない。ただ重い病気にかかったり、大きなけがを負ったりすると、生活は一気に困窮する。そうならないよう安定した収入を得られる機会を作りたい」と綿貫さんは語る。

農業ビジネスのアイデアのひとつが、農産物の生産・流通・販売をすること。卸売業者を通さずにホテルやレストラン、個人宅などへ、需要がある採りたて野菜を届けることができれば、農民の収入はアップするはず、というのが綿貫さんの狙いだ。

農業の機械化も同時に進める。耕運機やトラクターなどの農機具を農民が買えるよう、綿貫さん自身が農機具を輸入・販売したいと話す。購入代金を農民が払えるように、マイクロファイナンス機関も立ち上げ、担保なしの小口融資を農民に提供。それだけでなく、売り上げアップのノウハウなども伝える。資金調達からコンサルティングまで、農家の収入向上をワンストップで手助けするのが綿貫さんの夢だ。

■SHEPで農家の収入が1.5倍

綿貫さんの原点は、青年海外協力隊員として2017年10月~2019年9月にコトヌー近郊の町コベで活動した2年間にある。綿貫さんはまず、農家の収支状況や資産を調べて、利益がどのくらいなのかを農家自身に把握してもらった。また何が売れるのかを市場調査して、売れる野菜を作りよう提案した。

その結果、綿貫さんがかかわった農家の収入は1.5倍以上になったという。「任期が終わったら、自分で会社を立ち上げ、ベナンの農家の収入アップに貢献したいと思った」

成功のカギとなったのは「SHEP(Smallholder Horticulture Empowerment & Promotion)アプローチ」だ。これは、国際協力機構(JICA)の農業専門家が開発したスキームで、マーケットのニーズに応じた農業をすることで小規模農家の収入を上げる方法。綿貫さんはSHEPアプローチの知識を独学で得て、隊員時代の2年で実践した。

パン屋のチェーン展開、日本食の提供、野菜の宅配、農機具の輸入、マイクロファイナンス機関の設立、農家に対する経営コンサルティング――。「誰もが志をもって愛にあふれる世界を創造する。この理念に向かって、ベナンで事業を進めていきたい」。綿貫さんはこう夢を膨らます。

青年海外協力隊時代に一緒に活動していた野菜農家グループと綿貫さん

青年海外協力隊時代に一緒に活動していた野菜農家グループと綿貫さん

リンの定例会議の後に撮った全スタッフの集合写真

リンの定例会議の後に撮った全スタッフの集合写真