カンボジアの教育レベルを上げるカギは教師の読解力! 「読書WS」を教員養成大で必修にした中村健司さん

カンボジアの教員養成校の卒業生を対象にした大規模な読書ワークショップでファシリテーターを務める中村健司さん(中央)。2019年11月、カンボジア東部のモンドルキリ州で撮影

カンボジアの教員養成大学で教鞭をとる教官に、読書ワークショップ(読書WS)のやり方を教える日本人がいる。学習ファシリテーターの中村健司さん(Learning is fun代表、45歳)だ。「カンボジアでは教師も本をほぼ読まない。だからか教師の読解力や理解力は15歳と同じぐらいのレベル」と語る。カンボジアでは1970年代後半に起きた大虐殺で教師もターゲットになり、その負の影響はいまだに影を落としている。

まずは読書の楽しさを!

読書ワークショップをする授業「読書の演習科目」は、公立の小中学校の教師を目指す学生が通う、首都プノンペンにある教員養成大学(4年制)の1年生にとって必修だ。中村さんの役目は、同大学の教官5人(クメール語3人、英語2人)にこの授業のやり方をトレーニングすること。学生らに直接教えるわけではない。

授業の特徴は大きく2つある。1つは、事前に本を読まないでも大丈夫なように設計していること。全15回の授業で教官が毎回紹介する“使える読書法”を駆使し、その場で20~25分かけて章ごとに読み進める。取り上げる本は、クメール語の翻訳版も出ている、人間関係を良くする30の原則を物語調で書いた「人を動かす」(デール・カーネギー著)だ。

使える読書法には、たとえば本の内容と自分の経験を結びつけるやり方がある。この場合、「人を動かす」に出てくる「笑顔が大切という原則」から、「あなたにとって、これまで笑顔を意識して良かったことは何か」を考えていく。読解力・理解力を伸ばす効果があるとされる方法だ。

このほか、本の内容をあえて批判的に考えたり、読んだ後に要約文を書いたりもする。中村さんは「教官が紹介するいくつかの読書法の中で、自分にあったお気に入りの読み方を見つけてもらう。まずは本を読む楽しさを知って、読書に慣れ親しんでほしい」と語る。

もう1つの特徴は、学生(1クラス25人)が毎回3~4人のチームを組み、能動的に授業に参加するアクティブラーニングの形式を取り入れていることだ。導入の決め手について中村さんはこう話す。

「カンボジアの学生に、自分の頭で考えて意見を言う練習をさせたい。権威主義が強いカンボジア人はもともと、他人の意見に反対したり、自由に発言したりほとんどしない。学校の授業は教師が一方的に話し続ける受身型。正解を暗記させる受験勉強型でもあるため、生徒は教師の顔色をうかがいがち」

声かけ・拍手・振り返りも

中村さんは、教官をトレーニングする目的で模擬授業を何度となく実施してきた。生徒役となった教官からは「こんなに意見を出したらダメだと思っていたけれど、言っても良かったんだ」と好反応だったという。読書が苦手な人に対しては「友だちと話す感じで楽しいでしょ」と意識転換を試みる。

模擬授業で中村さんは、実際の授業でファシリテーターを務める教官に対して、ファシリテーターの手本を示す。「あと5分でいいから意見を出そう」「チームで助け合おう」といった声がけの重要性だ。誰かが意見を言った際の拍手も欠かさない。

加えて、毎回の授業のラスト10~15分に設ける「振り返り」のコツも手ほどき。中村さんによれば、トレーニングの際に教官だけで振り返ると、本の内容をなぞるか、「頑張った」「練習した」などの簡単な感想で終わるケースが少なくない。そこで中村さんが「学んだ読書法は好きか」「どんな点が好きか」と聞き方を工夫するよう伝える。

中村さんがトレーニングした教官が「読書の演習科目」の授業を始めたのは2021年12月。2022年4月からは新たに、第2の都市バッタンバンにある教員養成大学でも同じ授業が始まる予定だ。

カンボジア人教官が教員養成大学で担当する授業「読書の演習科目」(読書ワークショップ)の様子。教官に授業のやり方を教えた学習ファシリテーターの中村健司さんは、日本財団の支援とカンボジアの教育NGO「ESC・KIZUNA」との協働で活動する

カンボジア人教官が教員養成大学で担当する授業「読書の演習科目」(読書ワークショップ)の様子。教官に授業のやり方を教えた学習ファシリテーターの中村健司さんは、日本財団の支援とカンボジアの教育NGO「ESC・KIZUNA」との協働で活動する

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