カンボジア北部で有機カシューナッツの契約農家を増やす! 国際協力NGO「IVY」の狙いは農民の収入アップ

カシューナッツの木を剪定するカンボジアの農家の人たち。カンボジアで最も貧しいとされるプレアビヒア州でIVYが提供する技術研修で(写真提供:IVY)カシューナッツの木を剪定するカンボジアの農家の人たち。カンボジアで最も貧しいとされるプレアビヒア州でIVYが提供する技術研修で(写真提供:IVY)

カンボジア北部にあり、国内で最も貧しい地域といわれるプレアビヒア州で有機カシューナッツの契約栽培を促す日本の国際協力NGOがある。山形市に本部を置く認定NPO法人IVY(アイビー)だ。有機カシューナッツをてこに、農民の収入アップを目指すとしている。

■ベトナム経由で欧州へ

プレアビヒア州でIVYが2018年10月~2021年12月に取り組むのは、現地の農協に対して、有機カシューナッツの契約栽培を促すこと。契約の相手となるのは、有機農産物の買い付けと輸出を手がけるカンボジア企業カンボジア・アグリカルチャー・コーペラティブ・コーポレーション(CACC)だ。

IVYによると、CACCと契約できれば、有機認証を受けた農協に入っている農家は、有機カシューナッツを、有機でないものよりも15〜20%ほど高い値段で買い取ってもらえるという。同団体の安達三千代事務局長は「有機米だけを作ってきた小規模農家にとっては収入の安定につながる」と話す。

このプロジェクトの対象となる農協は、プレアビヒア州にある7郡のうち5郡13地区にある。有機認証を得るためには、農薬と化学肥料を3年以上使っていない土地で栽培されていることが必要。そのためこの条件に当てはまり、有機カシューナッツの生産量が多い13の農協を選んだ。

農家が収穫した有機カシューナッツをCACCは、隣国のベトナムに輸出する。ベトナムはカシューナッツの生産量と輸出量で世界一位。ところが近年の世界的なカシューナッツ需要の高まりで国内だけの生産量では追いつかず、カンボジアから輸入するようになった。カンボジア産の有機カシューナッツの主な最終目的地は欧州といわれる。

約3年のプロジェクトでIVYが目指すのは、13の農協が有機認証を毎年受け続け、契約栽培の体制を維持できること。1年目は3つの農協、2年目は10の農協が有機認証を得た。2020年はさらに3つの農協が続くことを目標としている。

■ニーム・ニンニク・トウガラシ!

有機認証を得るためにIVYが進める活動のひとつに、カシューナッツを有機栽培するのに必要な技術指導がある。

農家への指導役を務めるのは、IVYの農業アドバイザーで、プレアビヒア事務所長でもある原田淳之輔さんとカンボジア人スタッフ3人だ。カシューナッツの木の栽培方法はもちろん、自然農薬の作り方も教える。自然農薬の作り方の研修は毎年実施し、これまでの2年間でおよそ240人が参加した。

研修で取り上げるのは、ニームの葉を煮出して有効成分を抽出し、これを噴霧するというやり方や、ニンニクとトウガラシをすりおろしたものに酢を混ぜたものだ。「いずれも殺虫効果はない。だが害虫を寄せ付けない効果はある」(原田さん)

しかし実際は自然農薬を使う農家はまだまだ少数派。畑全体にまく自然農薬を自分で作るには大きなコストと労力がかかるというのが理由だ。

「プレアビヒア州のカシューナッツ農家が所有する畑の面積は平均で約2ヘクタール(東京ドームの約4割)。この面積に自然農薬をスプレーするには500〜1000リットルの溶液が必要。ひとつの農家が手作業で作れる量ではない」と原田さんは言う。

■有機認証は毎年「ヒヤヒヤ」

そもそも「有機カシューナッツ」と認定を受けるのはそう簡単ではない。なぜなら有機認証が下りるのは、一軒一軒の農家ではなく、彼らが加入する「農協単位」となるからだ。1軒でも監査に引っかかれば、その農協は認証を受けられない。またはその農家のカシューナッツをすべて取り除き、出荷することになる。

IVYが監査を依頼したのは、フランスの国際有機認定機関エコサート(ECOCERT)だ。エコサートの監査員が年に1回畑を訪れ、1週間の滞在で1農協あたり10前後の畑を抜き打ちで調べる。

監査員が特に詳しく見るのは、畑の中に肥料袋やプラスチックの容器などが落ちていないか。有機栽培で使用が禁じられている化学肥料や農薬は、こうしたパッケージに入っていることが多いからだ。

監査員はまた、農家や農協の責任者に、1年間の出荷量や収入についても質問する。「きちんと記録をとっていることを示すため、テキパキと答えることができないといけない。認証監査にパスできるかどうか毎年、ヒヤヒヤしている」(安達さん)

■カシューナッツがブーム?

プレアビヒア州は、カンボジアのなかでも貧困率が最も高い地域だ。その理由は、2012年にタイとの国境紛争が終わるまで入植と開発が唯一進まなかった州だったためといわれる。

だが2012年以降になって、農地を求める20~30代の若者が流入してきた。それまで18万人だった人口がわずか数年で25万人以上に。このトレンドについて安達さんは「水が良く、未開拓の土地が多くあったため、若い世代の注目を集めたのだろう」と分析する。

プレアビヒア州の主な農産物はカンボジアの主食であるコメ。しかし近年はカシューナッツを育てる農家も増えてきた。

カシューナッツのメリットは、苗木を植えてからおよそ3年で実(ナッツ)を収穫でき、また木の寿命が10年以上と長いことだ。植えっぱなしで、灌漑設備も要らない。丘陵地や山など、水源から離れた土地でも育つ。栽培が簡単という理由で、カシューナッツの売り先を考えずにたくさん植えた農家は少なくないという。

プレアビヒア州でIVYが提供するカシューナッツの技術研修に参加し、自然農薬を木に塗り付けるカンボジア人(写真提供:IVY)

プレアビヒア州でIVYが提供するカシューナッツの技術研修に参加し、自然農薬を木に塗り付けるカンボジア人(写真提供:IVY)