NGOテラ・ルネッサンスの延岡由規氏、カンボジアの貧困層を「野菜の種で自立させたい!」

1021木村さん、Image[4350]京都市内で講演するテラ・ルネッサンスの延岡由規氏。「野菜の種を配ることは、与えるだけの援助とは違う」と訴える

国際協力NGOテラ・ルネッサンス(本部:京都・五条)のカンボジア駐在員で、海外事業部アジア事業サブマネージャーの延岡由規氏(23)は、カンボジア北西部のバッタンバン州で同団体が取り組む自立支援のプロジェクトについて京都市内で講演した。このなかで「野菜を育てればお金に換えることも、食べることもできる。野菜の種を配ることは住民の自立につながる」と熱く語った。

テラ・ルネッサンスが活動する村の一つがバッタンバン州のロカブッス村だ。この村では農業で生計を立てる人が少なくない。だが自分の農地をもって大規模に農業をしている人はほとんどいないという。ロカブッス村は地雷の不発弾被害に苦しんだ過去がある。住民の約7割が貧困層だ。「住民の多くは、政府から借りた小さな土地に住んでいる。満足な収入を得られるような広い農地をもっていないから、日雇い労働で暮らす人がほとんどだ。ロカブッス村は他の村よりも貧困に苦しむ住民が多い」と延岡氏は説明する。

そこで同団体が目をつけたのが、小さな土地でも少しの収入が期待できる家庭菜園。家庭菜園をすることで食費を減らすことが可能になる。「家庭菜園に力を入れている家庭では野菜が余ることがあり、それを売って、収入源の一つにしてもらう」(延岡氏)

テラ・ルネッサンス は2014年7月から月に1度、ロカブッス村の住民152世帯を対象に村の問題やビジョンについて話し合う自治会を開く。同年12月から、きゅうり、かぼちゃ、ナス、トマトなどの野菜の種を住民に配り始めた。家庭菜園を促すためだ。2016年には自治会の加入者が107人と、2014年の立ち上げ当初の29人から3.6倍に増えたという。

家庭菜園の意義について延岡氏は「野菜の種は、自分で水をあげなければ、食べることも、収穫した野菜を売ってお金に換えることもできない。食料やお金をもらうだけの支援とは違う。野菜を育てることが自立につながる」と語る。

自治会が発足した当初から参加していた、小売店経営の女性は「家庭菜園を始めた2年前から、市場で野菜を買ったことがない。育てた野菜をシャンプーなどの日用品とあわせて店で売っている」と言う。この女性の月収は約150 ドル(約1万6500円)。これはロカブッス村が位置するバッタンバン州の平均月収と同じだ。

ロカブッス村に対するテラ・ルネッサンスの支援は初めから順風満帆ではなかった。家庭菜園も普及していなかった。ロカブッス村の村長からは「村人は支援されることに慣れている。『支援を受ける=食べ物やお金をもらえる』との意識をもつ。お金や食べ物をあげないと自治会参加者は増えない」と言われたという。

ロカブッス村では2015年、テラ・ルネッサンスの支援を受け、灌がい水路が完成した。雨季には簡単に水が手に入れられるようになったことから住民の一部は家庭菜園を本格的にやり出した。庭で野菜がとれるのを見た他の住民も自治会に参加し、テラ・ルネッサンスから野菜の種をもらい、野菜を育て始めた。

カンボジアで売られる野菜の多くは隣国のタイやベトナムから輸入したものだ。延岡氏によると、安価だが農薬がたくさん使われて、また味の評判も良くないという。「今後はロカブッス村で育った野菜を『有機野菜』という付加価値をつけて販売していきたい」と延岡氏は講演を締めくくった。