マドゥロ政権が圧勝したベネズエラ国会選挙、アジ研研究員「市民の無力感は大きい」

ベネズエラで起きた反政府デモのようす(David Peterson/Pixabay)ベネズエラで起きた反政府デモのようす(David Peterson/Pixabay)

南米ベネズエラで2020年12月6日に国会議員選挙が実施され、マドゥロ大統領率いる「統一社会党」が圧勝した。議席の大多数を獲得し、マドゥロ政権は立法・行政・司法の三権を完全に掌握することになった。ベネズエラの専門家である、アジア経済研究所の坂口安紀主任調査研究員は「(国民の大多数を占める)反マドゥロ派の市民は大きな無力感を抱えている」と語る。

■反対勢力を排除してきた

今回の選挙では、与党・統一社会党とマドゥロ政権が取り込んだ野党が、あわせて92.8%の議席獲得率(得票率は68.4%)を得て圧勝した。この結果について坂口氏は「マドゥロ政権が勝つのは当たり前。彼らは完全に勝利するために準備してきた」と話す。

まずマドゥロ政権は選挙に先立つ2020年6月、選挙管理委員会の委員をマドゥロ派で固めた。ベネズエラの憲法は選管の委員を「国会が任命する」と定めるが、憲法に反して最高裁判所(マドゥロ政権寄り)に任命権を与えた。

国会が無視されたのは、マドゥロ政権が国会を無効化させたためだ。2015年12月の国会議員選挙では野党が過半数の議席を獲得。ところが野党の力を排除したいマドゥロ政権は2017年8月に、国会の機能を担う制憲議会(与党が全議席を占める立法組織)を発足させた。

「2015年の国会議員選挙では、選管の委員の大半がマドゥロ寄りだったことで、マドゥロ政権は国際社会から批判された。委員の入れ替えも要請された。それに応える形で入れ替えたとマドゥロ政権は言うが、再びマドゥロ寄りの委員で固めただけ。何の意味もなかった」(坂口氏)

最高裁はこのほか、主要な野党(大衆意思党、正義第一党、民主行動党)の党首の交代を命じた。坂口氏は「有権者が選挙で選んだ議員を、最高裁判所が勝手に変えるということ。普通はありえない」と首を捻る。

代わりに党首に就いたのは、野党の中で“くすぶっていた政治家たち”だ。「マドゥロ政権は、魅力的な役職と引き換えに、野党の中でくすぶっている政治家を味方に引き込む」と坂口氏は分析する。戦略や権力をめぐって野党の中で起こる対立につけ込んで、味方を増やしていくのがマドゥロ政権のやり方だという。

こうしてマドゥロ政権が「完全に勝利するために準備した」選挙について、坂口氏は「どう考えてもおかしいが、(マドゥロ政権寄りの)選管も最高裁も問題ないと主張している」と話す。

「マドゥロ政権にとって、選挙は民主主義を担保するためのものではない。出来レースを仕組んで、“自分たちは民主主義にもとづく選挙によって選ばれた”と主張するためのツールとして使っている」(坂口氏)

選挙に参加することで正当性を与えたくない野党がボイコットし、出来レースで圧勝したマドゥロ政権。ただ今回の選挙で、制憲議会によって無効化されていたとはいえ、野党が多数派を占めていた国会は消滅した。これで、マドゥロ政権は三権を完全に押さえたことになった。

■カネで支持者を釣る

マドゥロ政権は選挙で勝つべくして勝ったが、問題は投票率が31%と低かったこと。前回(2015年)の国会議員選挙の投票率(70%超)と比べても半分以下にとどまった。

これについて坂口氏はこう説明する。

「マドゥロ政権が重視するのは、正当性を高めるためにいかに投票率を上げるか。今回の投票率は前回より低いのも事実だ。ただマドゥロ大統領の支持率は10%台といわれる。これはつまり、マドゥロ政権を本当に支持する人だけでなく、『マドゥロ政権を支持しなければならない人たち』がそれなりに投票に行ったことを意味する」

マドゥロ政権を支持しなければならない人たちとは、マドゥロ政権を支持しなければ食料の配給を受けられなかったり、仕事を追われたりする人たちのことだ。

得票率を高めるために、マドゥロ政権は支援者にモノやお金を配る。投票にインセンティブをつけることで投票率を高めるのが狙いだ。今回の選挙では、マドゥロ政権は投票前に支援者にボーナスを支給していたという。

これまでの選挙でも、マドゥロ政権は支援者に「愛国カード」と呼ばれるカードを配ってきた。マドゥロ政権への支持を表すもので、このカードを持っていれば、選挙が終わってからも食料を受け取ることができるという。

「カードが配られた当時、マドゥロ大統領がテレビのCMで宣伝していたのをよく覚えている。マドゥロ大統領への支持を示すカードというイメージが植え付けられた」(坂口氏)

投票に行き、マドゥロ政権に票を入れなければ職を追われる人もいる。それは公職につく人たちだ。公務員であれば、投票に行かなかったり、野党に投票したりすると解雇されるという。

ほかにも、「故チャベス大統領が低所得者向けに建てた住宅があるが、そこの住人は与党を支持することが暗黙のルール。もし与党を支持しなければ、家を追い出されるおそれがある」と坂口氏は明かす。

■グアイドは暫定大統領ではない

選挙結果を受けて2021年1月5日、マドゥロ派が大多数を占める新しい国会が誕生した。これに対抗する形で野党勢力は、リーダーのグアイド氏を議長とする国会を独自に発足させた。

国会議員の任期は憲法上5年。今回の選挙をボイコットしたことでグアイド氏の任期は終わった。今では反マドゥロ派の勢いはそがれ、坂口氏は「反政府派の市民は大きな無力感を抱えている」と話す。

国際社会はこの状況をどうみているか--。日本や米国、南米諸国は引き続きグアイド氏を暫定大統領として支持。しかし欧州連合(EU)は一転して、グアイド氏を暫定大統領とはみなさないと表明した。

坂口氏は「憲法に基づくと、グアイド氏は国会議員ではないのだから、暫定大統領になれないというのがEUの見解。この転換はショッキングだが、EUは今後、グアイド氏を『反体制派のリーダー』として支持することになる」とみる。

グアイド氏は、2018年の大統領選挙でマドゥロ大統領が再選し、2019年から同政権の2期目が発足したころ、野党のあいだで頭角をあらわした。当時の大統領選も、マドゥロ大統領が勝つことが決まっていた出来レースだった。そんなマドゥロ政権から政権を奪おうと、グアイド氏は「暫定大統領」を名乗り始めた。

2019年の“グアイド旋風”に乗って、ベネズエラ市民も「マドゥロ降ろし」に向け、大規模な反政府デモに参加した。死者が出たことも。マドゥロ政権寄りの国家警備軍から逮捕されたり、ギャング団に暴行されたりする恐怖はあったが、野党がマドゥロ政権から政権を奪えるのではないかと希望をもっていたからだ。

だが結果的に政権交代は起こらなかった。今回の選挙でマドゥロ政権は国会までおさえてしまった。市民は「あれだけやったのに無理だった」という無力感にさいなまれている。