ネパールでは学校に行っても意味がない? 教育NGOのサルタックが「読書」で子どもの学力アップ目指す

読み聞かせ小学校で読み聞かせをしているところ(ネパール・ラリトプル)

幼児教育で「読解力の土台」をつける

サルタックの活動の2つめは、小学校で毎朝15分間、子どもたちが本を読む「読書タイム」を設けること。本を読む習慣をつけてもらうのが狙いだ。対象となるのは、ラリトプルの3つの公立小学校。サルタックが担う役割は、本の寄贈と読書タイムのようすを見ることだ。

読書タイムのモデルとなったのは、日本の小学校の朝読。 サルタック・ジャパン(NPO法人サルタック)と一緒に活動するサルタック・ネパールの初代代表(UNICEFネパール事務所に勤め、幼児教育を専門とするネパール人)が神戸大学大学院に留学していたとき、「朝読は、子どもに読書を習慣づけるのに効果的だと思ったようだ」と畠山氏は話す。

ネパールには、小学校の教室にブックコーナーを設置することを義務付ける法律がある。だがサルタックが2019年に調べたところ、ラリトプル市内の公立小学校でこれを守っていたのは8割にとどまっていた。サルタックはこれまでに、活動先の3つの小学校に約270冊を寄付してきた。畠山氏は「本は今後、本がまだない学校を中心に配りたい」と語る。

活動の3つめは、幼児などを中心に20~30人が夕方に通う「学習センター」の運営だ。週6日、放課後の学校の教室を借りて開く。

目的は、学びの基礎となる読解力の土台を、小学校へ入学する前に養うことだ。最貧困層の5歳未満児のうち、年齢に相応する読解力を身につけているのは20%以下。最富裕層では70%を超えるので、その差は3倍以上だ。

格差の後ろにあるのは、本に触れる機会の不平等さ。最貧困層の家庭では、1冊以上の本が家にあるのは11.5%。3冊以上はわずか2%だ。これに対して最富裕層の家庭の53%には少なくとも1冊の本がある。

読解力を高めるためにサルタックが手がけるのは、本の読み聞かせ。「小学校に入る前に、本に触れる機会がなくて読解力が発達しなかったら、教科書を配られてもどうしようもない。勉強についていけず留年してしまう」と畠山氏は言う。

読み聞かせ以外にも学習センターでは、絵本に描かれた動物の名前を答える「動物クイズ」、折紙、お遊戯などの「遊び」をとり入れている。読解力の元となる語彙力、記憶力、創造性などを育むためだ。

ネパールの幼稚園や小学校で主流なのは、教師が黒板を使って一方的に知識を詰め込む“チョーク&トーク”のスタイル。5、6歳の子どもにそれで知識を身につけろ、というほうが酷だろう。

畠山氏は言う。

「ネパールの教育を良くするために一番重要となるのが、最貧困層の幼児教育。これをやらない限り、小学校や中学校にいくら教育予算を注ぎ込んでも、学ぶための土台がそもそもできていないので、意味がなくなってしまう」

絵本の持ち込みは「最悪の国際協力」

活動の4つめは、ラリトプル市内の広場で開催するブックフェスティバルだ。2015年から年に2、3回のペースで開く。1回の来場者数は300~500人。ボランティアによる子ども向けの読み聞かせやゲームをしたり、絵本を無料で配ったりする。その数は多いときで1000冊にのぼる。

ブックフェスティバルにやってくるのは家族連れだ。字が読めない大人も少なくない。「自分たち(大人)が本に触れたことがないので、本を買って子どもに読み聞かせもできない。 (子どもが絵本に夢中になる姿を見せることで)子どもが本に触れる重要性をわかってもらいたい」(畠山氏)

サルタックが配る絵本はすべてネパールで調達したものだ。地元の出版社と提携し、1冊100円(約106ルピー)と安く買えるようにした。

日本から絵本を持ち込むことについて畠山氏は「最悪の国際協力。海外から無料で本が入ってくると、現地の出版産業がつぶれてしまう。その結果、本の市場は形成されない」と説明する。

サルタックはここにきて、絵本の出版も始めた。いままでに作ったのは2冊。値段は日本円にして1部100円だ。売り上げは年間1万円ほど。「富裕層の子どもが買ってくれ、その利益で、貧困層の子どもに無料で本を届けたい。それが次の目標」と畠山氏は語る。

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「オンラインでの読み聞かせ」を実験しているところ

 

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クロスワードパズルという遊びの要素を取り入れ、国語を学ぶ

 

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