テラ・ルネッサンスがカンボジアで「家畜銀行」、地雷被害者の月収がゼロから4300円以上に

カンボジア・バッタンバン州カムリエン郡で、ヤギを飼育するチャプ・ポンさん。新型コロナで仕事を失った人たちにも、自分が繁殖させたヤギを分け与えたカンボジア・バッタンバン州カムリエン郡で、ヤギを飼育するチャプ・ポンさん。新型コロナで仕事を失った人たちにも、自分が繁殖させたヤギを分け与えた

薬草の発酵液がニワトリを救う

いちばん多くの世帯に貸し出したのはニワトリだ。99世帯に5羽ずつ提供した。

しかしニワトリを売ったのは半分以下の47世帯。4年間の合計収入は6885ドル(約74万3600円)にとどまった。売った数の半分以上に当たる710羽は、住民が家で食べたという。

売り上げが伸びなかった原因は、感染症が流行ったことだ。放し飼いにしている家が多く、ニワトリ同士が行き来して広まっていた。江角さんは「囲って買うための網を配ったが、なかなか使ってもらえない」と話す。

これを受け、テラ・ルネッサンスの現地パートナーである農業NGO「CRDNASE」が、感染症の予防や治療に効く薬草の発酵液を作るワークショップを開いた。14種類の薬草を細かく刻んで黒糖と一緒に混ぜ合わせ、ココナツジュースとバナナを入れて発酵させる。1週間後にココナツジュースをさらに加えてかき混ぜる。1カ月ほどで完成だ。

地雷被害者のひとりで、妻と孫と暮らすメイ・ソンさんは、この薬を使って、病気になったニワトリを自分で治療できるようになった。その結果、ニワトリを100羽以上にまで増やした。近所の人からも、病気の家畜を診てくれるよう頼まれるまでになった。「とても探求心があり、病気で弱ったアヒルや犬にも同じ薬を試していた」と江角さんは話す。

この成功で、メイ・ソンさんは変わった。「義足を使っているので畑仕事が難しく、それまでは妻に仕事を任せて遊びに出ることが多かった。お酒も増えていた。でも、『これからは毎日ニワトリの面倒をみなければならないから、もう遊びには行かない』と話してくれた」(江角さん)

キャッサバで困窮 した!

テラ・ルネッサンスが家畜銀行プロジェクトを始める前、住民たちの収入はゼロに近かった。「事前に話を聞いて回ったときは、(生活苦から)泣き出したり怒ったり、人に会いたがらないような人が少なくなかった」と江角さんは振り返る。

バッタンバン州では2000年代初めから、キャッサバやトウモロコシをタイに輸出することが収入を得るほぼ唯一の手段だった。地雷被害者のなかでも、農地をもつ人はキャッサバを栽培。農地をもたない人は、キャッサバ農家が植え付けや収穫をする際に日雇いで働く。それもままならない人は、タイへ出稼ぎに行くしかなかった。

困窮の始まりは、2016年ごろからキャッサバの世界価格が急下落したことだ。カンボジアの英字紙プノンペンポストの2017年6月27日付の記事によると、生のキャッサバの市場価格は2014年から30%下落。乾燥キャッサバの1キログラムの価格も、2014年の17セント(約19円)から、8~10セント(9.5~11円)に落ち込んだ。

その結果、多くの農家が数千ドル(数十万円)単位の借金を抱えた。苗木や農薬を買ったり、労働者を雇ったりするために借りたお金を返せなくなったのだ。借金を返すには、農地を売り払うしかない。そのあおりを受け、日雇いでなんとか暮らしていた人たちも働き口を失った。

テラ・ルネッサンスが地雷被害者に絞って支援したのは、障がいを負ったことでとりわけ苦境に立たされていたからだ。「傷口から破傷風になっていたり、障がいのせいで骨格のバランスが悪く、痛みを抱えている人が多かった。日雇い労働や出稼ぎで、ほかの世帯と同じように稼げないハンデは確実にあった」と江角さんは言う。

ニワトリを感染症から予防する、または治療する薬となる「薬草の醗酵液」を作っているところ(バッタンバン州カムリエン郡)

ニワトリを感染症から予防する、または治療する薬となる「薬草の醗酵液」を作っているところ(バッタンバン州カムリエン郡)

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