【翻弄される西サハラ(4)】汚れた再生可能エネルギー、利益はモロッコ国王の懐に入っていた

サハラーウィが避難するアルジェリア難民キャンプでの抗議行動。バナーには「シーメンスは西サハラから出ていけ」と書かれている(写真提供:ウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ)サハラーウィが避難するアルジェリア難民キャンプでの抗議行動。バナーには「シーメンスは西サハラから出ていけ」と書かれている(写真提供:ウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ)

搾取した電力でリンを搾取

西サハラの再生可能エネルギーは、モロッコに搾取されて終わりではない。西サハラの植民地化に“再利用”される。

フォーメルオエッド発電所の電力は、西サハラの主要な資源であるリンの採掘に使われる。リンを採掘するのは、モロッコ政府が出資する鉱山企業OCPの子会社フォスブークラーア。フォスブークラーアは、リンの採掘現場で使う機器のほか、鉱山から港までリン鉱石を運ぶベルトコンベアーにもフォーメルオエッドの電力を利用する。

フォーメルオエッドの電力は、発電所近くで開発が進む臨海都市にも利用される予定だ。その名も「フォーメルオエッド先端技術都市」。街から出る廃棄物や下水をリサイクルする計画で、エンジーもエネルギーのコンサルタントとして開発事業に参画する。「モハメド6世技術専門大学」も開校する予定だ。

ダーフラ風力発電所の電力は、ナレバが建設中の海水淡水化工場が利用する。淡水化した水は、王室が100%出資する企業「レス・ドメインス」や多国籍農業企業が所有する大型プランテーションで農業用水として使われるという。収穫したメロンやトマトは海外に出荷する。

サハラーウィ不在の協議会

サハラーウィはモロッコの西サハラ支配を強める再生可能エネルギー事業に反対する。だがサハラーウィの声はモロッコ政府と多国籍企業によってかき消される。

サウジアラビアの電力開発企業ACWAパワーは2016年、西サハラの首都エルアイウンの近郊で太陽光発電所の建設事業を落札した。ACWAは同年、地域住民から理解を得るために公開協議会を開催した。だが参加しようとしていたサハラーウィは当日、モロッコ警察に邪魔され、会場のホテルに入れなかった。

モロッコ政府の役人やONEEのスタッフ、ACWAパワーの社員で占められた協議会の結論は、「太陽光発電所の建設で危害を受けるステークホルダー(利害関係者)はいない」というものだった。

「そもそもサハラーウィは今まで一度も発電所の建設に同意していない。サハラーウィの代表であるポリサリオ戦線は多国籍企業に対して『建設を止めてほしい』『話し合おう』と訴えてきた。しかし企業からの返答は一切ない。何一つ相談がなく再生可能エネルギー開発が勝手に進んでいく現状に、サハラーウィは深く心を痛めている」(エイクマンスさん)

サハラーウィが発電所で働いたとしても、給料は少ない。そもそも高等教育を受けているサハラーウィは多くはない。高収入なポジションはモロッコ人と外国人が占め、サハラーウィは発電所の末端の労働力とてこき使われるのが関の山だ。

「サハラーウィは家族を養うため、仕方がなく安い賃金で、賛同してもいない発電所で働く。こんな理不尽なことはない」とエイクマンスさんは嘆く。(おわり)

0520西サハラの地図

西サハラのエルアイウン港に2013年に到着したシーメンス・ウインド・パワー(当時)製の風車(写真提供:ウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ)

西サハラのエルアイウン港に2013年に到着したシーメンス・ウインド・パワー(当時)製の風車(写真提供:ウエスタンサハラ・リソース・ウォッチ)

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