支え合って奮闘するブラジルのスラム住民、「新型コロナに無策な政府に期待しない」

マレー地区の広場の塀にある「COVIDー19パネル」。ブラジル国内、リオ市内、マレー地区内の新型コロナ感染者と死者の数がグラフィティのように書かれる。写真はFrente de Mobilização da Maré(マレー運動前線)提供マレー地区の広場の塀にある「COVIDー19パネル」。ブラジル国内、リオ市内、マレー地区内の新型コロナ感染者と死者の数がグラフィティのように書かれる。写真提供:Frente de Mobilização da Maré(マレー運動前線)

300以上の都市で反政府デモ

マルチンスさんは、マレー運動前線の活動を通して住民が支え合う理由について、極右のボルソナーロ政権への不満をぶちまける。

「ワッツアップ(日本のLINEに相当する通信アプリ)のグループチャットで拡散された『新型コロナウィルスなんて存在しない』などのフェイクニュースの流出元をたどると、行き着くのはボルソナーロ大統領。マラリア治療薬のクロロキンを、効果が確かめられていないのに『新型コロナの特効薬』とも喧伝。ワクチンを打った人をばかにした言い方もする」

軍人上がりのボルソナーロ大統領は、コロナ禍で保健相を次々と更迭。他の省庁のトップも軍人に変えていった。マルチンスさんは「(軍人は)専門性をもたないから、政府はまっとうな予防啓発を実施できない。市民は正しい情報をもらえない」と懸念する。

貧困層にはさらなる懸念もある。PCR検査の不十分な体制だ。ブラジルの無料の公的医療制度(SUS)にもとづいて貧困地域に設置された診療所は、PCR検査に未対応。遠くにある無料の公立病院に足を運べない場合、薬局にある市販の検査キットを買うしかない。マルチンスさんは「検査キットは、時には300レアル(約6000円)以上。これは貧困層の月収の半分近く」と話す。

新型コロナに無策な政府に市民が募らせる不満は、すでに爆発している。マルチンスさんによれば、2020年のパンデミック(新型コロナの大流行)以降、ボルソナーロ大統領の記者会見がテレビで流れると同時に、市民が自宅の窓辺で抗議のために鍋を鳴らす「鍋叩きデモ」が続く。

ワクチン接種の迅速化を求める路上デモも始まった。デモは、2021年5月から7月までに3回、国内300以上の都市で同時に発生。マルチンスさんによると、参加したのはファベーラの住民、先住民、マレー運動前線のような団体、公立校の教師の団体だ。「腕にワクチンを、皿に食べ物を」「ワクチン、仕事、ボルソナーロは辞めろ」などの看板を掲げた人が多くいたという。

個人や団体、国内外から寄付された支援物資を運ぶマレー運動前線のメンバー。写真提供:Frente de Mobilização da Maré(マレー運動前線)

個人や団体、国内外から寄付された支援物資を運ぶマレー運動前線のメンバー。写真提供:Frente de Mobilização da Maré(マレー運動前線)

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