支え合って奮闘するブラジルのスラム住民、「新型コロナに無策な政府に期待しない」

マレー地区の広場の塀にある「COVIDー19パネル」。ブラジル国内、リオ市内、マレー地区内の新型コロナ感染者と死者の数がグラフィティのように書かれる。写真はFrente de Mobilização da Maré(マレー運動前線)提供マレー地区の広場の塀にある「COVIDー19パネル」。ブラジル国内、リオ市内、マレー地区内の新型コロナ感染者と死者の数がグラフィティのように書かれる。写真提供:Frente de Mobilização da Maré(マレー運動前線)

「(ブラジルの)ボルソナーロ大統領は、新型コロナ対策をないがしろにしている。待っていても助けはないから、政府には期待しない。だから自力で支え合う」。こう話すのはブラジルのファベーラ(スラムの意)出身・在住のジャーナリスト、ジゼリ・マルチンスさん。「オリンピックの裏で広がる新型コロナウィルス」のウェビナー報告第2弾。

横断幕や街宣車を使う!

マルチンスさんが生まれ育ち、いまも暮らすのは、リオデジャネイロ市内にあるマレー地区。リオ市内に1000カ所以上あるファベーラのひとつだ。住民の数は約14万人にのぼる。

マレーの住民は2020年3月、新型コロナの感染拡大とともに緊急対策プロジェクト「マレー運動前線」を立ち上げた。スローガンは「連帯こそが私たちを救う!」。メンバーはみんなボランティアで、マルチンスさんもジャーナリストとして参加する。医療関係者や心理士もいる。

マレー運動前線が力を入れるのは、新型コロナの実態を住民が理解しやすいように伝えること。たとえば「COVID-19パネル」という取り組みでは、ブラジル国内とリオ市内、マレー地区内の感染者と死者の数を、広場の塀にグラフィティのように書き、住民の目に留まるようにする。

「どんな手法なら住民に伝わるか」を意識するのは、感染予防の呼びかけでも同じだ。マルチンスさんは、手洗いやアルコール消毒の必要性を横断幕に書いて掲げたり、街宣車で音楽を流しながら知らせたりすると説明する。壁新聞や無線放送も使うという。

集団接種もスタート

マレー運動前線がとくに目を向けるのが、困窮家庭だ。個人や団体、国内外から寄付された食料品や衛生用品、ガスなどを1カ月あたり約1000人に支給。2020年からの1年半で延べ2万人を助けてきたという。マレー運動前線のホームページには50団体が支援者として名を連ねる。

継続して支援してくれる団体もついた。ブラジル産ワクチンをつくる国立研究所のフィオクルース財団だ。マルチンスさんは「マスクやアルコール消毒がより手に入りやすくなる」と喜ぶ。同財団の全面協力で、マレーでは7月下旬からワクチンの集団接種が始まった。

マレー運動前線は、ブラジル政府を批判する声も上げる。発端は、新型コロナの影響を受けた低所得者向けに2020年4月から始まった現金給付制度が、財政赤字を理由に同年12月末でいったん打ち切りになったことだ。「給付を再開しろ! まっとうな金額を!」と訴えてきたという。

ウェビナーでマルチンスさんの通訳を務めたジャーナリストの下郷さとみさんによると、現金給付制度は2021年4月に再開し、10月まで続くことが決まった。だが毎月600レアル(約1万2000円)だった基本額は、150レアル(約3000円)へと4分の1に減額。下郷さんは「(ブラジルの)法律が定める最低賃金(月給)の7分の1程度」と説明する。

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