「大相撲の国際化」が終わる日は近い? 元横綱・白鵬の引退をモンゴル人目線で考えてみた

2010年11月の大相撲・九州場所(福岡)の開会式で土俵にあがった元横綱・白鵬(J. Henning Buchholz / Shutterstock.com)2010年11月の大相撲・九州場所(福岡)の開会式で土俵にあがった元横綱・白鵬(J. Henning Buchholz / Shutterstock.com)

「白鵬の引退で、外国人力士が主役の時代は一区切りついたのではないか」。大相撲についてこう推測するのは、中国・内モンゴル自治区出身で、中国やモンゴルの近現代史を研究する滋賀県立大学のボルジギン・ブレンサイン教授だ。2000年から21年にわたって(横綱としては14年間)土俵に立った白鵬は通算1187勝(歴代1位)、優勝回数も歴代最多の45回を積み上げた。

すべての矛先が白鵬に

ブレンサイン氏が注目するのは、白鵬が現役の間、「横綱としての品格が足りない」と批判を受け続けてきたことだ。「相撲は日本の国技」と強調する大相撲ファンもいたという。

白鵬は立ち合いの際に、いわゆる「相撲らしくない」技を仕掛けることが少なくなかった。代表的なのが、折り曲げた腕を相手の胸や顔にぶちかますかち上げや手のひらで相手のほおを叩く張り手。これらは実は、大相撲のルールで禁止されていない。

ブレンサイン氏はこう訴える。

「白鵬に批判が集まったのは、『大相撲の国際化』が限界を迎えたからだろう。相撲界全体で抱える問題のはずが、白鵬があまりにも勝ち続けたためか、(白鵬に)すべての矛先が向いた」

ブレンサイン氏によれば、力士はルールのなかで「自分の強さ」を見せつけて勝利を狙うもの。これは、大相撲と違って土俵と時間制限がないモンゴル相撲でも同じだ。ブレンサイン氏は「モンゴル出身の白鵬にとって、モンゴル相撲も大相撲もそれぞれ大切な伝統文化。勝ち負けにこだわるスポーツとは思っていないはず」と明かす。

モンゴル人の弟子はとらない?

白鵬の引退理由のひとつにブレンサイン氏は「外国人力士としての居心地の悪さ」を挙げる。おそらく白鵬の心境はこうだ。

「そろそろ強い日本人力士が登場しないといけない。自分は区切りをつけ、幕内(番付が横綱から前頭まで)や幕下(力士養成員)にいる若手の日本人力士に活躍の場をもっと与えたい」

ブレンサイン氏によると、引退して間垣親方となった白鵬は、あえてモンゴル人の弟子をとらない可能性があるという。「白鵬は、(自分の経験から)強ければいいという相撲だと、いくら努力してもバッシングを受けるとわかっている。親方になっても悩み続けるだろう」

白鵬以外にこれまで誕生したモンゴル人横綱は4人。朝青龍、日馬富士、鶴竜、照ノ富士(現役で唯一の横綱)だ。モンゴル勢が相撲界を席巻した2000年代をブレンサイン氏はこう振り返る。

「モンゴルといえば相撲を思い浮かべる日本人が多くなった。おかげでモンゴルと日本の関係もより親密になった。どちらの国にとっても、間違いなく大きな財産」

だからこそブレンサイン氏は、白鵬の引退を機にモンゴルと日本の関係が薄くなるのではないかと危惧する。ちなみに2022年はモンゴルと日本の国交樹立50周年を迎える年だ。

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