内モンゴルが受けた言語への締めつけにモンゴル国民も反発、失った「伝統の文字」を取り戻したい

モンゴル国内で出版された本。多くが、中身はロシア語の文字と同じキリル文字、表紙と背表紙のタイトルは伝統のモンゴル文字になっているモンゴル国内で出版された本。多くが、中身はロシア語の文字と同じキリル文字、表紙と背表紙のタイトルは伝統のモンゴル文字になっている

中国・内モンゴル自治区政府が2020年9月にモンゴル語による教育を禁止してから1年。この政策に反発したのは、同自治区のモンゴル族だけではない。隣国モンゴルの国民もだ。内モンゴル自治区出身で、滋賀県立大学のボルジギン・ブレンサイン教授は「内モンゴルへの締めつけが、モンゴルにとっては、旧ソ連に奪われた伝統の文字(内モンゴルで使うモンゴル文字)の大切さを見直すきっかけになった」と語る。

モンゴルではモンゴル文字を使わない!

中国政府の対内モンゴル政策にモンゴル国民が反発した最大の理由は、内モンゴルで使われる伝統の「モンゴル文字」がなくなる危機感からだ。

内モンゴルとモンゴルでは実は、同じ民族でも使う文字が違う。モンゴルで一般的なのは、ロシア語の文字と同じキリル文字。ブレンサイン氏によると、かつて社会主義国だったモンゴルは、旧ソ連にモンゴル文字を奪われた。

「キリル文字を使うモンゴル国民も当然、モンゴル民族としてのアイデンティティをもつ。愛着があるのは、伝統とつながるモンゴル文字。モンゴル国民には、かつてモンゴル文字を失った後ろめたさもあると思う」(ブレンサイン氏)

さらにこう続けた。「モンゴル文字がついに内モンゴルからも消えてしまう。次は自分たち(モンゴル国民)が伝統の文字を守らないといけない番という使命感が芽生えたのではないか」

モンゴル国民の有志らは、首都ウランバートルの中心地スフバートル広場などで、内モンゴル自治区に住むモンゴル族への締めつけに反対する抗議デモや集会、署名活動に参加。モンゴルの伝統衣装デールを着たり、モンゴル文字でメッセージを書いたプラカードを掲げたりして訴えた。

モンゴル文字は2025年に復活?

モンゴル国内では近年、モンゴル文字の使用を復活させる計画が進む。2016年に当時のエルベグドルジ大統領が、法律や政令など、モンゴル政府が発行する公文書をモンゴル文字で記す方針を示した。この流れを受けたバトトルガ前大統領が、2025年からキリル文字とモンゴル文字を併用すると発表した。

モンゴル文字が復活する可能性についてブレンサイン氏は懐疑的な見方を示す。

「2021年からあと4年で100%復活すること(キリル文字がなくなる)はあり得ない。キリル文字とモンゴル文字の併用といっても、モンゴル文字の使用頻度を少し高める程度ではないか」

これまでモンゴル国内でのモンゴル文字の普及は、あまり進んでこなかった。原因は、政権によってモンゴル文字の導入に温度差があったこと。2021年6月に実施された大統領選で誕生したフレルスフ政権が、前政権が出した2025年からモンゴル文字をキリル文字と併用する計画を引き継ぐかどうかは未知数だという。

ただブレンサイン氏は、2025年よりも先を見据えてこう話す。

「2025年から10~20年経てばおそらく、内モンゴルでは、中国政府が進める『標準中国語教育』が浸透する。モンゴル文字だけでなくモンゴル語も内モンゴルから徐々に消えていくだろう。この状態になれば、モンゴルは伝統の文字を公文書以外にも使うようになるかもしれない」

モンゴル文字を復活させる動きは、モンゴルが民主化した前後の1990年代前半にも起きた。1994年からモンゴル文字の学習は義務教育になったものの、復活の勢いは衰退。その後は、装飾用のデザイン文字として使われてきた。モンゴル国内で出版される本の多くは、中身はキリル文字、表紙と背表紙のタイトルのみモンゴル文字になっているという。

ロシアと国境を接するモンゴル側の街アラタンブラグの入口に立つ看板。モンゴル文字が使われている(写真提供:ボルジギン・ブレンサイン氏)

ロシアと国境を接するモンゴル側の街アラタンブラグの入口に立つ看板。モンゴル文字が使われている(写真提供:ボルジギン・ブレンサイン氏)

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