【ルポ・ミャンマーからの逃亡者を追う⑤】カレン族とビルマ族は共闘できるのか、KNUの“外相”に接触

カレン民族同盟(KNU)の創始者サウバウジが映るカレンダーの前に立つ、KNUの外相兼スポークスマンを務めるサウタウニ。見た目は穏やかだが、意思は強いカレン民族同盟(KNU)の創始者サウバウジが映るカレンダーの前に立つ、KNUの外相兼スポークスマンを務めるサウタウニ。見た目は穏やかだが、とてつもない意思の強さを感じた

「カレンの森を守る」

「春の革命が成功し、ミャンマーに再び民主主義が戻ったら、ブワイは何をしたい?」

私は話題を変えるようにブワイに質問した。彼はまだ20代前半。カレン族やミャンマーの未来を背負って立つ人材だ。彼がどんなビジョンをもっているのか、純粋に知りたかった。するとブワイはこう答えた。

「カレン州に戻って、カレンの森を守るフォレストレンジャーになりたい。美しい自然を後世に残したいんだ」

ブワイは確かに草木を指差しては「あれは日本にあるのか」と私に聞いてきた。植物に疎い私は「うーん。見たことはあるけど、どうなんだろうね」とあいまいな返えしかできなかった。

どうして植物に興味をもったのか。私はブワイに聞くとこう教えてくれた。

「難民キャンプに避難していた時、図書館に毎日通っていたんだ。その図書館は日本のNGOが運営していてね。名前、なんだったかなー」

「もしかしてシャンティ?」

私は思わずこう聞き返した。

「そうそう、シャンティ。図書館が閉まる夕方の5時まで毎日、生物の本を読み漁っていたよ。それ以来、自然に興味があるんだ。カレン州の自然も今、少しずつ破壊されている。国軍を早く倒して、カレンの森を守らないとね」

ブワイはこう微笑んだ。

シャンティ国際ボランティア会(SVA)は2000年から、タイの難民キャンプで図書館を運営する日本のNGOだ。その図書館で学んだ青年が今、国軍やビルマ族に対する憎しみ以上に、自分の夢のために前を向いている。辛い経験をした子どもたちに将来の夢を与えるNGO。私は彼らの活動に深い感銘を受けた。

夜の11時を回り、私は帰ろうと立ち上がった。ブワイが家の外まで見送りに来てくれた。私は最後に同じような質問を彼に投げかけた。

「ビルマ族を許すことはできるの?」

するとブワイは今度は少し真面目にこう答えた。

「許せるさ。というか、許さないといけない。人間である以上、人を憎み続けられない。許すことからすべては始まる」

私はこれまで世界各地のクリスチャンから「許す」という言葉を言い聞かされてきた。だがそのたびに「きちんと謝りもしないのに許せるか」と心の中で言い返してきた。だがブワイが言う「許す」という言葉は、私の心にすっと入ってきた。(終わり)

メーソットマーケットで草花の絵を描くブワイ。ブワイが植物に興味をもったきっかけは、タイ側の難民キャンプの中で日本のNGOシャンティ国際ボランティア会(SVA)が運営する図書館で読み漁っていた本だという

メーソットマーケットで草花の絵を描くブワイ。ブワイが植物に興味をもったきっかけは、タイ側の難民キャンプの中で日本のNGOシャンティ国際ボランティア会(SVA)が運営する図書館で読み漁っていた本だという

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