【ルポ・ミャンマーからの逃亡者を追う⑤】カレン族とビルマ族は共闘できるのか、KNUの“外相”に接触

カレン民族同盟(KNU)の創始者サウバウジが映るカレンダーの前に立つ、KNUの外相兼スポークスマンを務めるサウタウニ。見た目は穏やかだが、意思は強いカレン民族同盟(KNU)の創始者サウバウジが映るカレンダーの前に立つ、KNUの外相兼スポークスマンを務めるサウタウニ。見た目は穏やかだが、とてつもない意思の強さを感じた

「今がチャンス」

だが私にはひとつ解せないことがあった。これまでいがみ合ってきたカレン族とビルマ族が軍事クーデターを機にすぐに協力できるものなのか。

カレン族はこれまで、国軍から迫害を受けてきた。村は焼き払われ、土地を奪われた。歯向かえば容赦なく殺され、女性はレイプされた。一連の蛮行は国軍が犯したものだ。だがその裏には、ビルマ族が少数民族に対してもつ差別感情や無関心があったことも否定できないだろう。

「本当にビルマ族と共闘できるのか」

私はサウタウニーに率直に質問した。するとサウタウニーは私の目を見てこう言った。

「間違いなくできる。そもそも一般のビルマ族はこれまで、国軍のプロパガンダに騙されていたのだ。KNUは国家転覆をもくろむ反政府組織だ、と。だが今回のクーデターで、国軍とKNUのどちらが正しいのかに気づいた。今ではKNUを支持する声がビルマ族の中でも高まっている」

数日前にここメーソットで取材した、ヤンゴン出身で、ビルマ族とシャン族の両方の血を引く民主活動家のHも「KNUには感謝しても感謝しきれない」と繰り返し話していた。カレン族以外の間でもKNUへの支持が広がっているのは紛れもない事実だろう。

「KNUの創設者のサウバウジは70年以上も前、『カレン族だけでなく、ビルマ族やその他の少数民族の理解の上で、真の連邦制が実現できる』と言っていた。今がまさにその時なんだ」

サウタウニーはまくしたてた。

「共闘できる」「今がチャンス」というサウタウニーの言葉に嘘はないだろう。NLDや民主活動家、少数民族の武装組織はこれまでになくひとつにまとまろうとしている。

とはいえKNUの幹部の発言だけで、カレン族がビルマ族と共闘すると素直に信じるのは早計だ。一般のカレン族はどう思っているのか。

私は、メーソットでの取材のフィクサーを務めるカレン族の青年、ブワイに聞いてみることにした。

「ビルマ族の75%は信じられない」

その夜、ブワイから夕食に招待された。私はムーピン(豚の串焼き)を屋台で買い、レンタルバイクでブワイの家に向かった。

ブワイは友人と2人暮らし。この夜はこの2人とブワイの彼女、そして私の4人でテーブルを囲んだ。私以外の3人は全員カレン族だ。

夕食のメニューは鶏肉の煮込みスープ、グリーンマンゴーの炒め物、付け合わせの野菜、そして私が持ってきたムーピンだ。スパイスの利いたスープがコメによくあう。私はブワイが作ってくれたカレン料理に舌鼓を打ちながら、取材を始めた。

「今日、KNUのサウタウニーに会ってきたよ。ビルマ族やNLD、民主派と共闘して、今年中に国軍を打倒するって言ってた。ブワイはビルマ族と共闘できる?」

するとブワイは「どうかな。ビルマ族の75%は信用ならないかねー」と言って、その場の友人たちと大笑いした。

この答えを聞いて私は少し驚いた。ブワイは20代だが、客観性と落ち着きをあわせもつ青年だ。そんな彼が民族の違いだけでこんな発言をしたからだ。だが彼の話を深く聞くうちに、ブワイのこの発言が過去のつらい体験に裏打ちされていると分かった。

ブワイはミャンマー第2の都市マンダレーから東に70キロメートル離れたピンオールウィンの出身。父親は土地を所有し、果樹園を営んでいた。

だがブワイが7歳の時、国軍は一家の家と土地を没収した。軍用機の飛行場を作るというのが理由だった。家と生活の糧を失った一家は、ブワイのおばを頼ってヤンゴンから100キロメートルほど離れたバゴーに移り住み、そこで農業の手伝いを始めたという。

だが悲劇はそれだけで終わらなかった。国軍の部隊は2007年、ブワイが住んでいた村に入り込み、家々を焼き払ったのだ。その村は当時、国軍と少数民族の武装勢力が頻繁に対立するところだった。またしても家を奪われた一家は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がタイ側に設置した難民キャンプに避難した。

「燃え上がる家の光景が今でも目に焼き付いている」というブワイ。「家族はどうなったの?」と私が尋ねると、鼻で笑うようにこう答えた。

「2度も家を失って、親父は頭がおかしくなった。ヒスイなどの宝石や仏像を集めるようになったんだ。クリスチャンのくせに。何かにすがりたかったんだろうね。そんな親父も、おかしいまま去年死んじゃったよ」

国軍に2度も家を奪われ、難民生活を強いられたブワイ。そんな彼の口から出てきた「75%のビルマ人は信用ならない」という言葉に、私は何も言えなかった。

ブワイが作ってくれたカレン料理

ブワイが作ってくれたカレン料理

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