ガボンは「中部アフリカが民主化する希望」となるのか、2023年8月クーデターの真実

中部アフリカに位置するガボンの首都リーブルビルは大西洋に面する大都会で、人口の約半数が居住するとされる。リーブルビルはフランス語で「自由の街」を意味し、解放された奴隷が1849年に建設した。写真は奴隷解放を象徴する像(写真は森口氏提供)中部アフリカに位置するガボンの首都リーブルビルは大西洋に面する大都会で、人口の約半数が居住するとされる。リーブルビルはフランス語で「自由の街」を意味し、解放された奴隷が1849年に建設した。写真は奴隷解放を象徴する像(写真は森口氏提供)

2年で民政移管を果たす

国民の側に立つ形でクーデターを成し遂げたガボン国軍。若者らは歓喜して街に飛び出し、アリ・ボンゴ氏の選挙ポスターを破り捨てた。国営メディアはクーデターの直後、喜ぶ市民の様子を繰り返し報道。2日後に発行された大手新聞社ユニオンも、軍の行動を歓迎した。

クーデターから5日経った9月4日、暫定大統領に就任したのは大統領親衛隊長だったオリギ・ンゲマ氏(48)だった。オリギ・ンゲマ氏はオマール・ボンゴ元大統領の甥(おい)にあたる。オマール・ボンゴ氏の警護副官に2005年、30歳の若さで就いた腹心でもあった。

だが2009年にオマール・ボンゴ氏が病死すると潮目が変わる。息子のアリ・ボンゴ氏が大統領に就任してから、父(オマール・ボンゴ氏)の側近らは次々と左遷された。オリギ・ンゲマ氏もモロッコやセネガルの駐在武官(外交官の身分を併有し、大使館などに勤務する軍人)として10年を国外で過ごす。

アリ・ボンゴ大統領(当時)が2018年に脳卒中で倒れた翌年に帰国したが、「ジューヌ・アフリック紙のインタビューによれば、(自分を事実上左遷した)アリ・ボンゴ氏との関係は良くなかったとされる」(森口氏)。

国民を味方につけたオリギ・ンゲマ暫定政権が取り組む施策のひとつは、汚職の撲滅だ。道路の敷設工事を終わらせずに契約金を受け取っていた企業を特定し、工事を続けさせたのもその一例。森口氏は「ガボンで活動する複数の企業が、談合や過剰請求などの汚職にかかわっていたと指摘されている。それらが政変(クーデター)後に大統領府が主導する調査で明らかになった」と話す。

国土の87%を森林が占めるガボンで重要な木材産業にもメスを入れる。「オリギ・ンゲマ暫定政権は違法な森林伐採や木材輸出の監視を強化している。ガボンアクチュ(現地メディア)によれば、昨年11月には、輸出が禁止される高級木材『ケバジンゴ』を積んだコンテナ10台がガボン最大の港で発見され、実態の解明が進められている」(森口氏)

ガボン政府の財政状況も立て直す。債務状況を整理し、金利の高い債務から順に返済する計画をンゲマ暫定大統領が主導し始めた。公共支出を減らす目的で、国会議員の手当をカットし、さらに大統領の給料も自主返納することを決めた。

暫定政権から民政へ移管する道筋も明確だ。各界の代表が集まり新憲法について1カ月ほど議論する「国民対話」を2024年4月に開き、同年末の国民投票で新憲法を採択する予定だ。オリギ・ンゲマ暫定大統領は2025年8月に大統領選を実施し、2年間で民政移管を速やかに実施すると公言する。これは、2021年9月にクーデターが起き、民政移管を目指すギニアの3年と比べて短い。

ガボン政府のこうした取り組みを見た大多数の国民も、暫定政権を支持する。「国民は生まれてこのかたボンゴ一族の政治しか知らない。(今の政治を見て)『汚職のない暫定大統領がそのまま正式な職に就いてもいい』と考える人も少なくないだろう」(森口氏)

「他のアフリカ諸国を見ても、ここまで国民に歓迎される政変(ク―デター)はなかったのではないか」と森口氏。米国の価値観を重視するオリギ・ンゲマ暫定大統領によって、中部アフリカで民主主義のモデルとなる国家が誕生する可能性に期待を寄せる。

(記事中の発言内容は個人の見解に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません)

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